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『野球小僧』編集部アンケート

2012年5月

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過去のアンケート内容とその結果

  • 001 今年最も興味があるチームは?

2012-05-18

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第34回)

みなさんこんにちは。

もうすでに5月、大学野球界もリーグ戦の真っ最中です。

今回は東都の二部とはいえ、一部の選手にも劣らない打力を持ったあの選手を紹介します。

●ジャイアンツからの育成指名を拒否して…Photo

東京農業大学の陽川尚将(ようかわ・なおまさ)。強打が光る右の大砲とうたわれる陽川は、金光大阪高校3年生時に読売巨人軍から育成枠で指名を受けた経歴を持つ選手だ。しかし、彼が選んだのは東都2部に所属する、東京農業大学への進学だった。

当然、彼を見る周囲の目は他の選手よりも少し厳しくなることだろう。私も陽川がどのような活躍を見せてくれるのか、また1年目から彼のプレーを見られるのかと楽しみにしていた。

公式戦デビューは入学直後の開幕カード、第3戦目に訪れた。6番、指名打者でのスタメン出場。東農大と言えば、強打のチーム。当時も3年生ながらパンチ力が際立つ樺澤健(現トヨタ自動車)が4番を務めるなど、バッティング力に優れる選手が名を連ねていた。
そんな中にあって、早くもチャンスを手に入れた陽川。しかしこの試合では2打数ノーヒット。途中でベンチへと退いた。
だが次の試合で再び、代打で出場機会を得る。
それはランナーを一塁に置いた場面だったのだが、一球強振してみせると、次は一転してバントの構え。見事に打球を転がして犠打を成功させた。
2打席目には打った瞬間それと分かるほどのホームラン。レフトへと突き刺さるような当たりだった。


大学初安打が初本塁打――大物の片鱗としては十分すぎるほどのインパクトだった。

この試合以降、全試合でスタメン出場を果たした陽川。結局このシーズンで3本塁打を放つなど、大学最初のシーズンとしては上々の出来だったとはいえる。一方で、無安打の試合も多く、途中交代を命じられることもあった。

Photo_2
翌シーズンは、3番セカンドが彼の定位置となった。
前季の経験も生かせたのだろう。全14試合にフル出場し、リーグ3位タイの打率.333、ホームラン5本は2部で一番多い数字だ。
特にチャンスでの一打が目立ち、ここぞの一本が光った試合がいくつもあった。

●2年目のジンクス

しかし、2年目のシーズンは少し苦しいものになった。
序盤こそ毎試合連続でヒットを放っていたが、何か物足りないものを感じていた。
得点の好機に陽川が打席に入れば、もう1点はもらったもの。
それほどの思いになれた昨秋から一転、今度こそ打てるかな…などと考えることが多くなった。
また、1年秋は無失策だったのだが、この年の春は3つのエラーを犯した。バッティングと守りは通じるものがあるのだろうか。
打つ方に関して言えば、相手ピッチャーも陽川を要警戒選手として厳しくマークしてきたはずだし、それが原因の一つでもあると思う。
だが陽川には、それに負けることのない存在であってほしいと願ってやまない。それほどの選手だと思うし、そういう姿を見てきたから余計にそう思ってしまうのだった。

そして今春――。それまで4番を担っていた樺澤が卒業し、陽川は4番サードを任されるようになった。
結果的に立正大との開幕カードは、東農大が2連勝で幸先良く勝ち点を挙げた。
陽川はこの2試合で4安打4打点と4番としての役目をさっそく果たしている。見ている者が思わず声をもらしてしまうような豪快なアーチも一本放った。

Photo_3

シーズンはまだまだ始まったばかりだが、昨秋に味わった最下位の悔しさをこの春に生かしてほしい。
そして昨年3部優勝校との入れ替え戦で立った神宮の舞台に、今年は2部優勝チームの4番として立ってほしい。

(こちらは4月中旬に書かれました。更新が遅くなり申し訳ありません)

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。今後の展開にご期待下さい。


東都大学野球連盟公式サイト
→http://www.tohto-bbl.com/


■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍した。亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)もくまなくチェック。今秋のドラフトで重複指名されるだろう東浜巨(亜細亜大)の大学時代は誰よりも見ている。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一
監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2012-03-02

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第33回)

みなさんこんにちは。

今シーズンに向けて野球界が動き出しました。あと1カ月で大学野球も本格的にスタートしますね。

さて今回は昨秋、鮮烈な印象を残したあの選手をご紹介します! ぜひご一読ください。

●國學院大の元気印

國學院大のキャッチャー、石川良平(桐蔭学園)。彼を初めて見たのは今から2年前、石川が入学して間もなくの春だった。Photo

開幕戦で1年生ながら2番“ライト”でスタメン出場。打席に入ると、大きな声で自らに気合を入れていた姿がとても印象に残っている。さっそくこのデビュー戦で大学初安打も記録した。

石川はこのシーズン、11試合に出場。本職のキャッチャーとしての出場はなかったが、リーグ戦の中盤からは指名打者としてスターティングメンバーに名を連ねた。それだけ石川の攻撃力は期待されていたということだろう。その一方で送りバントも非常にうまく、いとも簡単に転がし、ランナーをきっちり進めるシーンも多く見られた。

だが、國學院大が初優勝することになる翌シーズン。石川はスタメンの座をがっちりと掴むまでには至らなかった。しかしながら、1年目のシーズンにたくさんの経験を積めたことは間違いない。

連覇がかかった2011年春。石川は開幕戦をベンチで迎えることになった。この試合、代打で途中出場すると、そのままファーストの守備に就いた。当時のチーム事情から石川が出場する際は一塁を守ることが多かった。といっても、終わってみれば出場したのは5試合だけ。うち1試合は3カード目の青山学院大戦で、9回2死から代打で出場。相手の完封勝利を阻止するホームランを放った。しかしその公式戦初アーチがきっかけとなり、試合出場機会が増えることはなかった。チームの最下位が決まって迎えたこのシーズン最後の試合、石川は初めてキャッチャーとして出場を果たした。

このシーズン、グラウンド内にいる時間は決して長いものではなかった。

それでも石川は、大声でチームを鼓舞し、3アウトチェンジとなって守備から引き揚げてくる仲間たちをベンチから一番乗りで迎えにいっていた。自らの出番が少なくても、チームの一員として全力で戦っているように見えた。

●『4番・石川良平』として

2部降格して迎えた昨年秋。2カード目の第2回戦、石川は7番・指名打者としてこのシーズン初めて先発出場を果たした。しかも3打数2安打1打点と、いきなり結果を残してチームの今季初勝利を手繰り寄せた。

「今日の朝、スタメンだと言われたんですけど、爆発してやろう!と思いました!」

試合後の石川に話を聞くと、そう言って笑みをこぼしていた。

そしてこのゲーム以降、彼はスタメンの座を手に入れた。

シーズンも中盤となった4カード目。試合前のアナウンスを聞いて驚いてしまった。

Photo_2『4番・指名打者 石川くん』

だが驚いたのと同時に、嬉しさもこみ上げてきた。驚きと喜びの余韻が醒めない中、石川は 第1打席でいきなりホームランをかっ飛ばして見せた。

チームは開幕から続けて勝ち点を落としており、最下位の恐怖がちらつく中での4番という大役。そんなプレッシャーなど感じさせない一振りだった。

この試合は敗れてしまったが、翌日はリベンジを果たす。

そしてまたもこの試合、石川は第1打席でホームランを放ったのだ。

この日はチームも勝利をおさめたため、石川は笑顔で話をしてくれた。

「ホームランはビックリしましたけど、球場が狭いから入ったので…。(打球の行方は)入ったかどうかだけ見ました」

言葉にするとそれほど喜びは伝わらないかもしれないが、話をしてくれる彼の表情は、いつもにも増して明るく輝いていた。だが話題が打順のことに及ぶと、それが少し変わった。

「4番にこだわりはないので、いつも通りにやろうかなと」

多くは語らなかったが、それでも最後はいつもの様子で締めくくってくれた。

「とにかく勝ちたいです。最下位は嫌なので、全力で勝ちたい!」

國學院大は、このシーズンを2位で終えた。石川は規定打席に到達し、リーグ5位タイの打率.343という好成績を残した。今までで最高の結果を残し、これからの活躍に大いに期待がかかる。

さらに、これまでチームの正捕手を務めてきた清水隆弘が卒業。石川はキャッチャーとしてもチームを引っ張って行ってくれるだろうか。期待を込めてその行方を見守っていきたい。

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は3月下旬~4月上旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

 

●東都大学野球連盟公式サイト
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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988 年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マーク し、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。昨春発売された書籍『甲子 園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2012-02-01

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第32回)

 2012年になりました。長かった冬もようやく終わろうとしていますね。野球シーズンまであともう少しです!
 今回は昨年までの4年間、東都を、そして大学野球界を盛り上げてくれた、今年からはプロの舞台へと進むある選手をご紹介いたします。
 ぜひご一読ください。

|礼にはじまり礼に終わる
|受け継がれる真の通った野球遺伝子Suzuki2_4

 今年から千葉ロッテマリーンズでプレーをする鈴木大地(東洋大)。高橋昭雄監督も認める人間性とキャプテンシーの持ち主で、東洋大史上初となる3年生副主将となり、最上級生になると東洋大のキャプテンを務めた内野手だ。
 後にプロ入りするほど、その実力は十分の選手であることは言うまでもない。1年時から試合出場の機会を得、三塁、遊撃といずれのポジションでも堅守が光った。打撃もチームの4番を担うなど強打が持ち味。全日本代表としても活躍を見せた。
 しかしそれ以外の部分で、彼の存在はとても目立って見えていた。
 まず、打席に入る時に深く一礼する姿。球審の方へ体を向き、ヘルメットのつばを掴んで軽く頭を下げるバッターがほとんどの中にあっては、鈴木の“おじぎ”がとても目立っていた。もちろん前者を失礼などと思ったことはないが、鈴木のそれを見た時に衝撃を受けた。
 鈴木がこの動作をするきっかけは、彼の桐蔭学園時代の一学年上のある先輩の行動だった。
「その先輩がベンチと守備位置まで全力疾走していて、表彰されたんです。それで自分も何かしたいなと思いました」
 それがあの“おじぎ”になったというわけだった。
Suzuki1  そして昨年、彼の後輩である緒方凌介(PL学園)、戸田大貴(前橋工)も打席に入る際は球審に深々と礼をしていた。3人ともに左打者であり、クリーンアップを担っているから3人が連続で打席に入ることも多く、同じイニングで彼らの打席を見られた時は少し得な感じがした。相手チームにとっては脅威でしかなかったとは思うが…。
 また緒方に至っては鈴木と同じ背格好であり、腰の折り方まで瓜二つ。一見すると見間違えてしまうほどそっくりだった。

 鈴木は全力疾走も心がけており、攻守交代の際はセンターを守っていた小田裕也と速さを競うようにしてグラウンドを駆けている場面も見られた。 
 この小田は非常に俊足であり、一方の鈴木は決して足が速いとは言えない選手。以前、あまりにも足が速い小田に対してイヤミを言うことがあると言っていた。どういったことですか? と向けると「お前、足速いなあって」と返ってきた。
 それがイヤミ? 本当はもっと過激なことを言ってたのかな? そうでなければこれほど優しいイヤミなんて聞いたことがない。これも鈴木らしさなのだろうか。

 前回の編集部ログで紹介した立正大・吉田裕太は、この鈴木の全力疾走に感銘を受けて、すぐに自身も実行するようになった。また、打席に入る際の動作も直属の後輩が真似をしている。その鈴木自身も、一人の先輩の姿に影響を受けた選手の一人だ。
 活躍の舞台がプロに移ろうとも、そのプレースタイルを貫いていってほしい。そうすればこうした素晴らしい連鎖がもっともっと、続いていくはずだから。Suzuki3

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は2月中旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

 

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988 年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マーク し、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。昨春発売された書籍『甲子 園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2011-11-21

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第31回)

 今年のドラフトで読売巨人軍から4位指名を受けた國學院大・髙木京介。 Photo_6
 星稜高校時代はエースで4番として甲子園に出場し、高校の先輩である松井秀喜選手になぞらえて『ゴジラ2世』として注目を浴びた。
 しかし実際に話をしてみると、ゴジラとは程遠いほど朴訥とした語り口。とても繊細な印象を受けるのだ。
 彼は制球が非常によく、3年生春には開幕から実に25イニングス連続無四球だったこともある。

|まったくかみ合わない――
|もどかしい気持ちでいっぱいだった

 当時2部だった1年生の頃から試合に出場し、経験を積んできた髙木。
 
 しかし髙木といえば援護に恵まれない……そんな印象が色濃くあった。
   相手打線を0に抑え続ければ、自チームのスコアボードも0が並ぶ。結果として0-1や0-2といったロースコアで敗れることが多くあった。また、味方が早々に点を取ってくれたときは、髙木が失点を重ねてしまうこともあった。
 まったくかみ合わない――。選手の誰もが思っていたとは思うが、見ているこちらももどかしい気持ちでいっぱいだった。

Photo_8 昨秋の開幕戦マウンドにも、髙木は立っていた。この頃には彼が実質エースとして活躍を見せていたことを思えば当然だった。
 チームは順調に勝ち星、勝ち点を積み重ねていたが、シーズン中盤から髙木がマウンドに立つことはなくなっていた。ベンチ入りもしておらず、制服を着た髙木の姿を見かける日々が続いた。しかし“エース”不在の中でも、鷲尾拓也、阿部拓也(ともに4年)と言った同期の新星が現れ、髙木の穴を埋めていく。
 シーズンも終盤を迎え、國學院大は残す未消化の亜細亜大3回戦を残すのみとなった頃、突然ビックリする情報が飛び込んできた。
 明日の亜細亜大3回戦に勝利すれば、國學院大がリーグ初優勝。
 そして見事に目の前に迫ってきた初優勝を、自分たちの手でしっかりと掴んだ。
 だがグラウンド場の歓喜の輪には、髙木の姿はない。優勝をかけた大切な一戦にも、ベンチ入りすることはなかった。
 チームの優勝に嬉しさがないわけはない。しかしまた、嬉しさ100%というわけでもないはずだ。もちろんチーム全員で掴んだ優勝ではあるが、今まで國學院大を1部に留めてきた髙木の功労は大きいはず。しかし、それまでのチームを支えたエースがユニホームを着て仲間と喜べない。これまでの3年間で長く時間を過ごしたのは、圧倒的にグラウンドの上である。どうしようもないことではあるが、どうにも複雑な心境だった。

 その後に行われた明治神宮大会で、國學院大は初戦で敗退した。やはり髙木はスタンドにいた。

 今年の春。最上級生となった髙木は、開幕戦のマウンドに立っていた。よかった、とほっとしたのを覚えている。去年の借りを返してほしいと思っていたからだ。 Photo_9
 初戦こそ勝利したものの、それからはなかなか白星を挙げられない。2連敗を免れるのがやっとという状況で、とうとう國學院大が勝ち点0のまま東洋大の優勝が決まった。唯一の勝ち点0であり、勝率も悪かったために1つの負けも許されない展開だった。
 もう後がない一戦で、髙木が快投を見せる。優勝が決まった東洋大との2回戦は、藤岡貴裕(桐生一)との投げ合い。味方が初回、2回と藤岡から得点を奪って髙木を援護する。一方の髙木は序盤こそ走者を背負う苦しいピッチングとなったが、ホームは許さない。中盤以降は三者凡退のイニングを重ね、この試合を4-0で勝利し、最下位回避へ望みをつないだ。5安打無四球完封勝利。チームを勢いづかせる最高の1勝だと思えた。
 しかし――翌3回戦に敗れて最下位が決定した。リリーフで登板した髙木は敗戦投手になった。

 そして2部優勝校・日本大との入れ替え戦。初戦の先発を任された髙木は、途中で投球モーションに対して指摘を受け、7四死球と乱調。6回途中でマウンドを降り、結局その日は日本大が勝利した。
 4年春の入れ替え戦で敗れて2部に降格するということは、大学日本一の夢が断たれると言うことだ。つまり、去年グラウンドで経験できなかった優勝の喜びを感じることはできなくなる。全国大会のマウンドに立つこともない。
 だが2回戦も終盤の逆転負けを喫して連敗。2部降格となった。

 國學院大は今秋のリーグ戦も連敗スタート。3カード目にしてようやく勝ち点1を手にした上、負け数が多く、早い内に優勝の可能性は消滅した。
 勝ち点1のまま迎えた国士舘大戦は1勝1敗。髙木は初戦に先発して自責点0ながら2失点で敗戦投手になっていた。この3回戦を落とせば最下位にぐっと近づいてしまうという大切なゲームにもエースは先発し、8回まで無四球無失点、毎回の12奪三振の快投を見せる。バッター陣がくれた3点の援護があれば、このまま髙木が最終回も締めることは自然だろうと思っていた。
 だが先頭を内野安打で出塁させると、続く2者を打ち取って2死一塁。あとアウト1つ奪えば終了。この回に三振がないのが残念だな……などと思っていると、続くバッターにこの試合初めての四球を出してしまった。その瞬間、髙木は片膝をついて悔しさを露わにした。
 そして次打者がヒットでつないで1点を返された。無四球完封どころか、完封もなくなってしまった。
その程度だった。髙木が最終回を締めるということは信じて疑わなかったからだ。だが、さらに次のバッターがヒットで出塁し、2死満塁。この絶体絶命のピンチに、鳥山泰孝監督は球審にピッチャー交代を告げた。
Photo_11 ブルペンから走ってくる鷲尾に、髙木は「ごめん」と声をかけてベンチへ戻る。
 2番手の鷲尾は打者1人を打ち取って國學院大は逃げ切った。

 試合後の髙木に話を聞いた。
「疲れがある中ではよく投げられたと思います。(四球を出したときは)もったいなかったなあって」
 8回まで無四球、毎回奪三振だと伝えると、「そうなんですか?」と気付いていなかったようだった。
「今日は70点です。完封できたら100点に近かったんですけど。」
 100点に近い? では完封できたとして、何か足りないところでもあったのだろうか。
「いいピッチングができても、まだまだベストピッチができると思いたいんです。だから100点はつけたくないです」
 いつものように穏やかな口調ながら、はっきりと言いきった。そしてこうも続けた。
「もう優勝はないですけど、今、エースとしてやらせてもらってるんで、下の投手たちにエースの姿を見せられればいいなと思います」

 最終カードの東京農業大戦は、1勝でもすればチームの最下位の可能性が消滅する展開。もちろん初戦は髙木が先発した。
 4-2で迎えた9回に1死一,三塁とピンチを招いて降板した。2番手の鷲尾が併殺崩れの間に1点を失ったが、逃げ切った。
 2試合続けて、完投目前でマウンドを降りる形にはなった。それでも粘り強く、力強くエースとしてのピッチングを見せ続けた髙木。後輩たちの目にも強く焼きついたことだろう。プロの舞台でもさらなるベストピッチングを見せてほしい。それもまた、後輩の財産になるはずだ。

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は12月中旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

 

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988 年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マーク し、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。昨春発売された書籍『甲子 園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2011-09-23

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第30回)

 もう9月も半ばを過ぎたというのに、まだまだ厳しい暑さが続きますね。東都も開幕し、3週目に突入しました。すでに1部も2部も、熱戦が繰り広げられています! どちらの試合を見に行こうか、頭を悩ませる方もいらっしゃるかと思います。ともに2試合の場合は時間の関係上仕方ないことなのですが、2部は1試合だけど1部では2試合が行われる、ということは珍しくありません。そんなときに、2部を見るために購入した入場券で1部も見られればいいのに…という声を聞くことがあります。せっかく隣り合わせに球場があるのですから、気軽にハシゴできるようになれば嬉しいなと思っています。
 さて、今回は2部リーグに所属するあ の選手を取り上げたいと思います!

|拓殖大・馬淵三塁手の
|類を見ないインパクト!

 この編集部ログで初めて紹介する拓殖大の三塁を守るのは、馬淵烈(4年)。拓殖大といえば、2006年に亜細亜大学野球部前監督の内田俊雄氏が監督に就任したことで話題に上った。当時3部に属していた同大は、その後2部に昇格。また3部降格を経験するが、すぐに2部復帰。2部優勝こそないものの、最近では5位以上の成績を収めている。Photo
 そんな拓殖大で馬淵は3年生より三塁手を務めている。正直に言うと、目立った活躍、成績は残していない。しかしそのインパクトはとんでもない破壊力を持っている。わたしは今春のリーグ戦で初めてその迫力を目の前にした。
 まず打者がバントすると見れば「サード来い。サード来てくれ! 来いや!!」と叫んでいる。おそらくノックのときでもこんなに打球を呼ぶことはないだろう。
 またある時は相手の攻撃中、ピッチャーが2球連続で一塁に牽制球を放ると相手ベンチから「(牽制は)3球ないよ!」と声が飛んだ。するとこれを聞いた馬淵は「3球ない、言われてるぞ! 放ったれ!!」と投手に言葉をかけた。
 ヒットを打てばまるでサヨナラ打を放ったかのように喜び、守備でゲッツーを完成させれば人差し指を高々と掲げて背中で語る。

 あの選手は何なんだ――。
 頭ではそう不思議に思っていたが、そんな馬淵を見て表情は緩んでいた。
 しかしその一方で、ちょっとやりすぎじゃないか? と思うようにもなっていた。
 春のある試合でホームランを打った馬淵は、全力でベースを駆け巡る。ここまでは別段、おかしなことは何一つない。しかし、三塁ベースを蹴った彼は、ホームへとスライディングを見せた。
 率直に言って、見ていていい気はしなかった。ホームランを打って嬉しいのはもちろん分かるし、この一本をきっかけにチームが乗って勝利をつかんでほしいとも思うだろう。
 しかし相手あっての野球、スポーツの試合である。対戦相手を小馬鹿にしているとも取られかねない行動だった。

 Photo_2馬淵らしさとは。
 彼のことをずっと昔から見続けてきたわけではないが、そんなことを考えるようになった。確かにホームランの件で馬淵に対する見方が私の中で少し変わってしまった。でも、やはり気になる存在であることに変わりはない。
 その後、以前よりも注視してみると、大きな声を出して目立ったり、派手なアクションで注目を引くということだけが馬淵烈という選手への印象ではなくなった。
 拓殖大の攻撃が終わってチェンジとなれば、真っ先に三塁へと向かう姿があった。いや、正確には相手の外野手がベンチへ引き上げるよりも前にサードベース付近に立っていたのを見た。これは1度や2度のことではない。『全力疾走』で自分のポジションへとかけていっているのだ。
 それは目立ちはしないが、大切なことではないか。誤解のないように言っておくと、拓殖大の選手たちは『全力疾走』が心がけられている。自らの守備位置まで一目散に駆けて行く選手も馬淵だけではない。しかしなぜだか馬淵はその中でも存在感が引き立っている。

 そしてこの秋。
 拓殖大は2部に降格したばかりの國學院大から2連勝で勝点を奪う幸先のいいスタートを切った。さらに続く東農大戦でも初戦に勝利。開幕3連勝となった。しかしながら翌2戦目は敗れ、3戦目を迎えることになる。
 2-2の同点で9回に入り、拓殖大は6回からリリーフした石橋良太(2年)が東農大を無得点に抑えていた。9回裏の拓殖大は2アウトを取られ、バッターは馬淵。2ストライクと追い込まれていたが、ライトへヒットを放って自らがサヨナラのランナーとなる。一塁ベース上で雄叫びを上げ、喜びを露わにする馬淵。これが秋季リーグ5試合目にして、初めて放ったヒット。前日は途中で代打を送られ、ベンチに退いてもいた。喜びもひとしおだろう。Photo_3
 次打者は安田直人(3年)。春の打率は.059というリーグ最下位の成績だった。だがこの安田が右中間を破る当たり。一塁ランナーの馬淵は速度を緩めることなく二塁、三塁と回ってホームへ還ってきた。ヘッドスライディングで、セーフ。サヨナラ勝ちを決めた。
 笑顔の仲間たちに迎えられた馬淵は、泣いているように見えた。

 一時よりはすっかりおとなしくなった馬淵烈。しかし、チームの勝利のために全力でプレーする彼の姿はどこか光っている。2カードを終えて勝ち点2を手にした拓殖大を、どんどん盛り上げていってほしい。

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は10月中旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

 

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1988 年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マーク し、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。昨春発売された書籍『甲子 園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2011-08-02

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第29回)

 こんにちは! いよいよ夏真っ盛りですね。熱中症と日焼けには十分お  気をつけください。
先月行われた全日本大学選手権は、東都代表の東洋大学が優勝しました。そしてその少し前には入れ替え戦が行われていました。前回ご紹介した鷲尾拓也投手が属する國學院大は、2連敗で2部降格。立正大に次ぎ、2年連続で前年の秋季リーグ優勝チームが翌シーズンで降格となりました。
 6季ぶりの1部復帰を果たした日本大が、どのような戦いぶりを見せるのか。Photo_3
 激戦の2部リーグを勝ち抜くのはどのチームなのか。
 あと1ヶ月先に待つ秋季への楽しみは挙げればキリがないですね。このワクワク感を支えにして、暑い夏を乗り切りましょう!
 今回ご紹介するのは、東京農業大のあのサウスポー投手です。ぜひご一読ください!

|東農大の左腕エース!
|九谷とは…?

 東都大学野球リーグの2部に所属する東京農業大学。東農大には左右のエースがそれぞれ君臨している。以前、この編集部ログでも紹介した吉原正平は右の主戦。1年生の頃から登板機会を得て活躍を見せている吉原に対して、左のエースが九谷青孝(くたに・はるたか/南部高)だ。
 170センチ55キロと数字を見ても分かるように、線が細い。身長も大きい方ではないし、その上背に対しても55キロはあまりにも軽い数字だ。だ がピンチを切り抜けると、鬼気迫る表情でこぶしを突き上げたり、ガッツポーズを見せる。その力強さ、迫力の大きさは他のどんなピッチャーにも劣るものではない。
彼のフォームは独特で、グラブをはめた右腕を真っすぐと伸ばし、左腕を頭の後ろに持っていく。そこから、エイッ! とばかりに左の腕がしなってくる。一目見ただけで興味がそそられるピッチャーだ。

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 九谷の大学デビューのマウンドは、2年生の春季開幕戦だった。1部から降格したばかりの日本大戦に4番手で登板すると、1回2/3を投げて1失点。ビハインドの場面での出番だったため、勝敗には絡まなかった。一方の同級生・吉原はエースとしてチームを牽引していたが、九谷の登板機会といえばそういう状況が主だった。
Photo_6 しかし徐々に信頼を得たのだろう。ほぼ試合の行方が見えているような状況から、点差がそれほど離れていない場面でもその機会を与えられるようになった。
 そしてその年の秋季リーグでは救援ではあったが初勝利を挙げた。
 この頃の東農大の投手陣は、吉原がエースとして確立されている以外にはほとんどが日替わりでマウンドを任されていた。九谷はといえば、リリーフの中心的存在ではあったが目立つ活躍を見せていたと言えるほどではなかった。
 そんな九谷の存在感が、翌シーズンで大きく増すようになる。
 3年生の春にはまず、拓殖大戦で初先発を任された。1戦目は吉原が先発、完投して勝利。2戦目は敗れてしまい、3戦目までもつれた。その3回戦の先発は当然、エース吉原がするものだと思っていた。
だが、もう後がない状況でその役を任されたのは九谷だった。チームは延長12回の末に勝利を収めたが、6回から九谷をリリーフした吉原が勝利投手。それでも5月の専修大戦では先発として初白星。中継ぎとしても登板を重ね、ロングリリーフをも厭わない活躍ぶりだった。

|まさかの
|幕切れに…

しかしこのシーズン最後の登板はあっけなく、信じられない一球で幕を閉じた。
平成22年5月26日、対青山学院大2回戦。2部降格直後の青山学院大にとってはこの試合に勝つと優勝が決まる、大切な一戦だった。リードを許していた東農大が最終回に怒涛の追い上げを見せて逆転。3点リードで残すイニングは9回裏、青山学院大の攻撃のみとなった。
 この試合に敗れると優勝の行方が危うくな る青山学院大は、もちろん必死に向かってくる。Photo_72死を簡単に取られながらもソロで1点を返し、2点差ながらランナー一塁。ここでマウンドに上がったのが九谷だった。このような窮地に信頼の厚い彼に交代が告げられたことは当然だ。勝つための選択、それが九谷へのスイッチだった。バッターは当時2年生ながら強打が魅力の井上貴晴(報徳学園)。カウント0-2から九谷が投じた3球目は、ライトへ一直線の同点2ラン本塁打。これがこのシーズン、九谷にとって最後のマウンドであり、最後の一球だった。
 この試合は青山学院大が延長の末に勝利をし、2部優勝を決めた。
 そして昨秋。吉原―九谷の継投も多く見られるようになり、一方で九谷は先発としてもチームを支えていた。このリーグ戦で東農大は、初戦を落として2戦目を取るケースがほとんどであった。この2戦目こそ、九谷がスターターを任されていた試合。3カード目には大学初完封をマークし、優勝の望みをつなぐ駒澤大戦では1戦目の先発のマウンドに立っていた。結局敗れはしたが、大一番での先発を託されたことで、九谷が東農大のエースとしての信頼を掌中にしたことがうかがい知れる。
 優勝の可能性が潰えたチームは一転、最下位回避がやっとというシーズンではあったが、吉原・九谷という左右の両輪が誕生、確立したリーグ戦でもあった。

 九谷にとって大学ラストイヤーの今春――。
 九谷は先発投手として、1シーズンを通じて投げきった。結果として防御率1・80は堂々のリーグ3位。
Photo_8 しかしチームは優勝の可能性を最終節まで残しながら、2位に終わった。2部優勝し、入れ替え戦にも勝利して1部復帰を決めた日本大とのカードは、2戦とも逆転負けで落としてしまった――。
 日本大1回戦。九谷がこのシーズンで唯一リリーフ登板を果たした試合だ。
 この日の先発は吉原。8回まで1失点の好投を見せていたが、9回に2ランを浴び、さらにヒットを打たれたところで降板を命じられた。マウンドを降りたがらない吉原に九谷が苦笑いを見せてバトンを受け取った。この時点でまだ農大には1点のリードがある。九谷がピンチの芽を摘み取り、東農大が苦しみながらも白星を手にすることを信じて止まなかった。
 だが、ここで対峙したバッターが振り抜いた打球は、レフトのネットに突き刺さった。
逆転2ラン――。呆然とする東農大に対し、日本大は歓喜に沸く。悲喜が入り混じった雰囲気の中、次打者がバッターボックスに入る。そしてこの打者は、5点目となるソロ本塁打。まさか、まさかの結末だった。
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 着々とステップアップしているパワフル左腕は、ラストシーズンにどんな活躍を見せてくれるのだろうか。今後の行方から目が離せない。

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は9月中旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

●東都大学野球連盟公式サイト
http://www.tohto-bbl.com/

■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988 年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。昨春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2011-06-02

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第28回)

 長い間降り続いた雨がようやく上がり、久々に感じる暖かい陽射しが心地好いですね。
 先日ご紹介した《鷲尾拓也・前編》はご覧いただけましたでしょうか。國學院大vs日本大の入れ替え戦まで、もうあとわずかになりました。週末の天気予報を見るかぎり、試合は無事に行われると思います。お互いの選手が一生懸命、必死に戦う試合に対し、「楽しみ」という言葉がふさわしいかどうかは分かりません。しかしこれほどの真剣勝負を目の前で見ることができるのは幸せではないかと思います。
 入れ替え戦では私も、真剣に行方を見守っていきます!
 それでは《鷲尾拓也・後編》をどうぞご覧ください。
※ちなみに、前編はこちらです。
 

|確かな手ごたえをPh01_3
|感じて臨んだ一戦は…

 2011年春季リーグ、初戦を落とした駒澤大学2回戦の先発マウンドには鷲尾拓也が立っていた。待望の今季初先発は、敗れれば最下位となる可能性が濃厚になる重要な一戦だった。
 プレーボールの合図がかかると、互いにランナーを出すことさえ難しい展開。両先発は4回まで1人の走者さえ出すことはなく、息詰まる空気、緊張感が漂っていた。
 鷲尾は以降も危なげなく自分のピッチングを続けていく。バックの好守備にも助けられ、駒澤大に三塁を踏ませない快投だった。
 Ph02この息詰まる投手戦は、國學院大が9回サヨナラ勝ちを収めた。終わってみれば打者29人、球数99、被安打2、無四球、5奪三振という鷲尾らしい完璧な内容。いずれも三振は3アウト目に奪ったものというのは偶然だろうか。
 試合後の鷲尾は、複数の記者に囲まれてなかなかバスへと引き上げることが出来なかった。彼を待っている間、上月健太コーチに「鷲尾くんは完全復活ですね」と言うと「今までもいい球は投げていたんですよ」と笑顔で教えてくれた。
 そういえば前回、鷲尾はこうも言っていた。
「投げさせていただけるのなら投げたいですけど、高木(京介・星稜)も阿部(拓也・日大山形)もいいし…」
 準備は万全であった。ようやく巡ってきた今日というチャンスの日に、自分のピッチングをした当然の結果であったということだろう。

|“負ければ最下位”の
|試合に先発Ph03_3

 しかし悪天候などもあって駒大3回戦を行えないまま最終カードの東洋大戦を迎えた。
 日程が詰まっているために、試合当日は強い雨が降っていたが、試合開始時間を遅らせてこの一戦は始まった。
 一時より雨足は弱まったとはいえ、グラウンドは水を含んで緩んでいる。國學院大にとっては最下位回避に近づくため、東洋大は優勝をかけてという大切な一戦であったが、グラウンドコンディションは悪い。そんな中、予定時間より1時間半ほど遅れてプレーボールとなった。
 先発を任されたのは鷲尾と藤岡貴裕。序盤に2点の援護をもらうが、幾度とランナーを背負う厳しい展開となる。1点差に詰められるが、6回をこの1失点に抑える粘り強いピッチングを続ける。しかしながら7回、2点を奪われて逆転を許してしまった。そして8回、先頭打者にヒットを打たれたところで交代を命じられる。打線も1点の壁が厚くそのまま試合に敗れてしまった。
 試合後にも話を聞かせてもらいたかったが、事情があって出来なかった。「こんにちは」とあいさつしてくれた鷲尾は疲れた表情のように映った。
 負ければ最下位が確定する翌日の試合は先発した高木が完封、打線もつながって快勝した。

 翌3回戦も変わらず、負ければ最下位が決定となる一戦。この時すでに東洋大は優勝を決めていた。
 國學院大の先発はもちろん鷲尾。しかしながら初回に味方のエラーで出したランナーに生還を許してしまった。続く2イニングス目も四球で出した走者が2点目のホームを踏む。結局この回で鷲尾の役目は終わった。
 チームは0-3から一時同点に追いつく粘りを見せるが、勝ち越しを許して敗れてしまった。
 この時点でチームは勝ち点0。他チームは最低でも勝ち点2であるから、未消化の駒澤大戦で勝利しても勝ち点1止まりとなり、國學院大の最下位は確定した。
Ph04 試合後、國學院大の選手が出てくる通路で鷲尾を待っていたのだが、バスへと向かう選手たちに悲壮感は漂っていなかった。それはこのシーズンが始まってからもずっとそうだったのだが、厳しい戦いが続いても、暗くなることはないように見えた。語弊を恐れずに言えば、最下位に陥る危機感などさらさら感じていないようだった。だからこそ最後まで気落ちすることなく戦い続けられたのかもしれないし、大差を付けられる試合もそれ程なかったのだろう。「國學院らしさ」が失われることは最後までなかった。
 一方でもし落ち込んだ雰囲気になっていれば、負けた試合に話を聞くことなどためらってしまう。この日に話を聞こうと思えたのはそういう空気のおかげもあるし、もう1つ理由もある。
 それは前回登板のときに話を聞くことが出来なかったからだ。それまではどういう結果でも時間をもらって鷲尾の言葉を聞かせてもらった。事情があったとはいえ負けた試合で話かけないというのは、どうも私の中で引っかかっていた。相手がいいときだけ近づいて、悪くなったら離れる。そんなことだけはしたくなかったし、そう思われたくなかったからだ。だが、負けが許されない試合で先発し、2回2失点(自責は1)で降板した投手に、最下位が決定した直後に話をする。ためらいがないわけがない。
 鷲尾の姿を見つけて声をかけると、さすがに口ぶりは重かった。
「腕が振れませんでした。勝たなきゃという気持ちが強くて…」
 1部・2部入れ替え戦までは1週間ほど時間がある。その間の未消化試合で弾みをつけて、國學院らしい、鷲尾らしいプレーを見せて欲しい。初めて見る鷲尾の表情、初めて聞く鷲尾の声色に、そう思わずにはいられなかった。Ph05
 
 駒澤大3回戦は接戦の末、國學院大が勝利した。鷲尾が登板することはなかったが、チームとして入れ替え戦を勝って迎えるのと負けて迎えるのとでは、心持ちとしてまったく違うだろう。
 次に鷲尾に話を聞かせてもらうときは満面の笑みであってほしいし、多くの記者たちに囲まれて取材を受けていても、いつまでも待っていたい。

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は7月中旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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1988 年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。昨春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2011-05-30

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第27回)

     みなさんこんにちは。
 今春の東都1部・2部入れ替え戦の対戦カードが確定しました。昨秋リーグ優勝を果たした國學院大が最下位となり、2部優勝の日本大と入れ替え戦を行います。 
 私がこのカードを見るのは3度目です。過去2度の対戦では1勝1敗。
 今、國學院大が1部にいるのは、2008年秋に日本大との入れ替え戦に勝ったため。
 今、日本大が2部にいるのはそのときに國學院大に敗れたため。
…このような因縁の対決となっています!

 今回は國學院大の右腕エース・鷲尾拓也投手を2回に分けてご紹介いたします。
 体格、投手タイプが真逆である澤村拓一投手(中央大→巨人)と過去3度の投げ合いを演じ、2勝1敗と勝ち越した鷲尾投手。
 普段、平日に行われるリーグ戦を見にくることができない方たちも、ぜひ今週末に神宮へいらして鷲尾投手に注目してみてください。
 1部・2部入れ替え戦は6月4日(土)午前10時開始です。

 それでは《鷲尾拓也・前編》どうぞご覧ください!

|打てそうで打てない?
|背番号22のピッチャー

 鷲尾は170センチという上背で、投じるボールも剛速球という類ではない。しかも背番号は「捕手か!?」と思ってしまう22番をつけている。それだけでも印象に残る彼だが、もちろんピッチャーとしてもインパクト・活躍ともに十分なほどだ。
 彼の公式戦デビューは3年生の春と、やや遅めだった。彼の最大の武器であるカットボールを習得したのがちょうどこの時期である。Ph01_5
 カットボール? 聞いたことはあるけれど、戦国東都の並み居る強打者たちを抑え込めるほどのすごい球種なのだろうか。見た目ですぐ分からないボールであるし、鷲尾のピッチング自体にも特別なすごさは感じられなかった。
 何で打てないんだろうか…。失礼ながら、そう思ってしまうピッチャーだった。

 鷲尾が登板する試合を見ていると、味方ベンチから「まっすぐだと思ってるよー!」という声が聞こえてきた。ではこの時に投じたボールがカットボールなのだろう。しかしやっぱり、さっぱり分からない。だが、簡単に分からないから効果抜群なのだろう。私が容易に見極めては意味がない。
 彼のピッチングスタイルは、三振をたくさん奪うのではなく芯を外してゴロを打たせることだ。打ち気のバッターの芯を少し外すボールということだろう。守りの堅い國學院大だから、余計に安心して見ていられるピッチングなのだ。

 カットボール――。その武器は公式戦デビューと同時に「鷲尾拓也」というピッチャーの存在感を存分にアピールした。
 自身初の完封勝利は澤村との投げ合いの末、手に入れたものだった。その上、鷲尾が許したランナーは内野安打とエラーの2人だけ。奪三振は3つだが、わずか81球で四死球0という、完璧な内容であった。しかも先制点は、鷲尾の高校の先輩で「翔平さん」と慕う畠山翔平(現東海REX)が放ったソロ本塁打だった。鷲尾にとってこんなに嬉しい勝利はないだろう。
 デビュー早々に華々しい活躍を見せてくれたのだから、今後の活躍に期待するのは当然のことだった。 


|真価が問われる
|2度目のシーズン

 2010年春季の國學院大は4位と振るわなかった。鷲尾は2勝1敗、防御率2・12とリーグ3位の素晴らしい結果を残した。しかし特筆すべきはこの数字だけではない。与四死球数は34イニングスを投げてわずか5つ。これは群を抜いて少ない数字である。投球回数が違うとはいえ、防御率で上位をいく藤岡貴裕(東洋大)、澤村と比べてもいかに鷲尾の制球力が高いかが分かる。その一方で鷲尾の奪三振数は11と、これもまた藤岡、澤村の5分の1と格段に少ない。鷲尾がいかに自分らしいピッチングを繰り広げていたかが分かる数字であり、非常におもしろい結果となった。

Ph02_4

 しかしながら他チームにとって、鷲尾と対戦するのはこのシーズンが初めて。データはほぼないであろう。彼にとって真価が問われる2度目のシーズンが楽しみになった。
 

 そして昨秋――。鷲尾はエースとしてチームを引っ張り、優勝へと導いた。國學院大はたった1つの白星、黒星で優勝チームが決まるような大混戦のシーズンを制したのだ。中には最終回に逆転のピンチを背負った試合があったし、1戦目を鷲尾で落としながらも2戦目に味方が勝利して、3戦目にリベンジを果たした試合もあった。もちろん、チーム全員で掴み取った勝利が積み重なって

優勝へとつながったことは分かっている。それでも、このシーズンでの鷲尾の活躍なしでは優勝はありえなかったと思う。
 それなのに…。優勝を決めた試合直後のことだ。
 この試合で途中降板したとはいえ、勝利投手になったのだから優勝の喜びに満ち溢れていても不思議ではない。むしろそうしていない方が不自然とさえ思う。
 試合後のグラウンドには、歓喜に沸く選手たちを脚立を使って上から撮影しようとしているカメラマンが大勢いた。選手たちは、徐々にカメラマンの方へと近づくようにして喜びを露にし、その勢いで脚立の上にいるカメラマンたちが倒れてしまった。しかしカメラマンはそれに構わず起き上がって撮影を続けていた。
 脚立をそのままにしているのは危ないなあと思ったそのときだ。喜びに満ち溢れている仲間たちを一歩引いて見ていた鷲尾は、苦笑い気味にその脚立をそっと後ろに移動させた。
 ??
 なぜそんな冷静でいられるのであろうか。不思議であったが、それも鷲尾らしいのかな、と微笑ましくなった。


|リーグ連覇を掲げて
|臨んだ今春は…

 昨年の明治神宮大会で初戦敗退後、鷲尾に話をさせてもらう機会があった。私には責めたりするつもりなど全くなかったが、いろいろとその試合について質問をぶつけてしまった。丁寧に答えてくれていた鷲尾だが、途中でポツリとつぶやいた。Ph03_4
「すごい聞きますね」
 その顔に笑みはあったが、あの試合の傷はまだ癒えていない――そんなことを含ませた重い一言だった。
 そうしたら再び東都を制し、今度は全国を制することでしかその傷口は塞げないだろう。容易いことではないが、それを目標にすることは國學院大にとって当然であった。

 しかし、開幕カードでの鷲尾の出番は救援で短いイニングを投げるのみ。それも試合の行方が大方決まった状況での登板だったし、内容も決していいものではなかった。そうして開幕カード以降、彼のピッチングを見ることはしばらくなかった。ベンチに入ってブルペンにはいくものの、マウンドまではたどり着かない。
 ようやく彼が神宮のマウンドに立ったのは3カード目のことだった。たった1カードしか空いていないのだが、元々國學院大の試合が隔週であったこともあり開幕から長い間に感じた。
 その3カード目、初戦を落として迎えた青山学院大2回戦の8回だった。2点ビハインドの場面で鷲尾にスイッチ。2つの四死球でピンチを招いたが無失点で切り抜ける。彼の“持ち味”ともいえる派手なガッツポーズを見せると、何事もなかったかのような表情でベンチへと戻ってくる。
 1イニングで2つの四死球を与えたところ以外は、鷲尾らしさが溢れていた。
 私が待っていたのはこれだ! 
 9回に1失点し、試合にも敗れて勝ち点を落Ph04_4としたものの、試合後の彼はすがすがしい表情で、話を聞かせてくれた。
「バランスの問題があってフォームを変えました。(投げてみて)感覚はよかったです。これならいけるなって」
 決していい内容と思えるものではなかったが、彼の中にははっきりとした手ごたえを感じていたようだった。そして翌週、その言葉が嘘ではないことを彼のピッチングが証明してくれた。
〈つづく〉

 

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は6月頭の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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2011-05-03

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第26回)

 東日本大震災で被災された方に、心よりお見舞い申し上げます。
 このような状況の中でもリーグ戦の開催がなされることになり、感謝の気持ちしかありません。生活ができること、野球が見られること、すべてにありがとうという気持ちでいっぱいです。

 この震災による節電に伴い、東都大学リーグ戦では今までといくつか異なる点があります。Img_2612_2
 まずプ ロと神宮併用の関係で試合日程が不規則になったり、開始時間が早まりました。
 そして神宮球場内の電光掲示板の消費電力を減らしています。しかしながら見にくいという印象はまったく受けず、違和感はありません。十分選手名なども読めます。
 またシーズン当初、応援団は鳴り物での応援を自粛していました。校歌斉唱時のみに楽器を使用し、攻撃のときなどは応援指導部やチア、吹奏楽部員の方たちが声でメロディを奏でるなどして、選手達に声援を送っていました。今週あたりからは楽器を使っての演奏に切り替わっています。

 最後に、リーグ戦中は球場正面入口に募 金箱が設置されています。ご協力をお願いいたします。

 さて、今回は今までと趣向を変え、4月8日に東京農業大学グラウンドで行われた試合について記していきます。どうぞご覧ください。

|初の東農大グラウンド観戦で
|野球の温もりを再認識

 東都の二部リーグといえば、神宮第二球場で行われることがほとんどだ。しかしながら、ゴルフの打ちっぱなし練習場でもあるため、基本的に休日は使用することが出来ない。大型連休などの場合はその代替球場として東農大のグラウンドが開催場所となることが多い。
 今回は東京都の高校野球春季大会が神宮第二で行われていたため、二部リーグの開幕は東農大グラウンドであった。

 実は東農大グラウンドで公式戦を見るのは初めてだった。この場で試合があるときは、大抵一部の試合を見に行っていたからだ。いつか行こう、いつか行ける…と思ってとうとうこの春まで行くことはなかった。
 言い訳はさておいて、ここは大学グラウンドだから入場料金は無料。座席はホームベースの真後ろに、会議室にあるようなイスが20脚以上はあっただろうか。一塁側、三塁側にも長イスのようなものが複数置いてある。
 いくら二部Img_3215_2とはいえ、レベルの高いリーグ戦が大学グラウンドで行われるなんて…。
 しかも観客席など、環境が万全に整っているわけではない。正直、ここでやるのかあ、と少々気落ちした。
 試合開始の午前9時まではまだ時間があるというのに、グラウンドの周りはすでににぎやかだった。
 “バックネット裏”の席に座ってしばらくすると、東農大の部員さんが「いかがですか?」と座布団を差し出してくれた。当日は強風が吹きすさび、到着して間もないというのにひどく寒くなっていたから、その心遣いをありがたく受け取った。

 試合中、高く上がったファールボールが両側のネット付近に上がっていくと、近くにいる部員が合図を送る。観客ももちろん危ないが、たまたまそこを通っている人だっている。試合を見ていれば打球の行方を追うこともできるが、偶然その場に居合わせた人はそうはいかない。幾度かの危機を、その場にいた人間の声が救っていた。

 この日はとにかく風が強かった。グラウンドの砂がこちらに向かって飛んできて、目には入るしメモを取っていたノートは汚れてしまう。いつ入ったのか分からないが、口の中までジャリジャリするし、口を閉めていたはずのカバンまで中が砂だらけになってしまった。
 5回が終了する前だっただろうか。後ろに座っていた東農大の部員達が、「今日は風が強いから…」と、話をしていた。どうやら、グラウンド整備についての話だったらしい。神宮球場であれば、神宮外苑のスタッフが整備をしてくれるが、ここではそういうわけにはいかない。こういう時は部員が自分達で考えてやってくれているのだと、何だか嬉しく感じた。 Img_3259
 そしてグラウンド整備の時がきた。40人弱の部員が一斉にグラウンドを飛び出し、整備にあたる。 
 トンボを使って  備している者がいたり、複 数の 部員がホースを持って水をまいていたりもする。嫌味を言うつもりは一切ないとを前置きす   るが、人数は多いのに試合 が再開されるまでの時間は長かった。それは、グラウンド自体が神宮とは違っているし、  整備をする範囲だって広  いためだ。部員達は一 生懸命、試合進行に妨げがないように念入りに整備 をしてくれているように映った 。その光景を眺めているだけでも、今日は来てよかったな、 と思えるものだった。  
 それが終わると、国士舘大、東農大の両チームが「ありが とうございましたっ!」と頭を下げる。Img_3263_3
 そんな姿を見て、心が洗われたような気がした。  

 初めての東農大グラウンド公式戦。たくさんの工夫と思いやり、優しさがいっぱい詰まっていた時間であった。同時に多くの人に支えられてリーグ戦、野球が成り立っているのだと改めて実感した日でもある。 

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2011-02-18

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第25回)

110219kino01  2月に入り、プロ野球もキャンプインしましたね! もう球春到来と言ってもいいでしょうか。しかし東都の開幕はまだもうちょっと先ですね…。あとしばしの我慢です!
さて今回は國學院大・渡邉貴美男選手の後継者第2弾、木野学選手(青山学院大)です。

 青山学院大のセカンドを守る木野学(PL学園)。1年生からレギュラーの座を掴み、活躍している。ピンクのリストバンドがよく似合っている彼は、渡邉の後継者と言われてすぐに思いついた選手。渡邉と体格も雰囲気もタイプも似ていたからだ。身長は165センチと小さい部類に入るが、線が細いとか弱々しさというものはまったく感じられない。木野のバッティングには力強さが感じられるし、決して非力という印象は受けなかった。
 同様に彼の守備も非凡なものがある。抜けそうな当たりに飛びつくような派手さはないが、セカンドへ飛んだ打球は安心して見ていられるような守りが持ち味でもある。

110219kino03身長165センチと体格には恵まれていない木野だが、ボーイズ・八尾フレンド、PL学園高校、そして青山学院大学と名門チームでレギュラーを張ってきた。派手さはないが、決して非力なイメージはない

 しかし木野らしさ、という点ではやはりそのキャラクターに注目したい。彼から発せられる声はとても甲高く、一発でその声の主が分かるほど特徴的だ。セカンドのポジションから叫ぶ! ピッチャーが一球投じるごとに叫ぶ! 指示を飛ばすときもその声は場内に響き渡っている。青山学院大といえば木野、木野といえばハイトーンボイスという流れは私の中で揺らぐことはない。
 プレー中の声出しも魅力的だが、グラウンドでの行動も非常におもしろい。茶目っ気がたっぷりあるような一面を見せたかと思えば、急に両膝に両手を載せて猫背になりむせている。別にいちいち取り上げることなどないように思われるだろうが、咳をするまでの動作をわざと演じていたかのように見えてしまった。まるで牛乳を飲むときに手を腰に当ててしまうように、咳をするまでの体勢をしっかりと作っている。これが妙にツボにはまってしまったことをよく覚えている。
 試合の流れに注目しなくてはいけないのだろうが、ベンチにいる木野が気になってしょうがなくなるほどだ。とにかくおもしろい。野球選手としての魅力と、木野学という人間のおもしろさがグラウンドにはある。

 昨秋、青山学院大シーズン最後の試合後に木野に話を聞かせてもらおうと思った。しかし秋季リーグ戦での最終戦といえば、そのチームにとって最後の試合ということ。初めはそのことに気がつきもしなかったが、神宮球場のロッカールーム付近の様子がいつもと違うことでようやく理解できた。
 まずい…。
 それまでは何も感じていなかったのだが、自分が完全にアウェーであることにひとたび気づいてしまうと、木野に話しかけることにためらいが生まれた。いや、その場にいることすら抵抗があった。
 しかしながら、この日を逃せばコメントをもらうチャンスはない。しばしの葛藤の後、通路は歓声に包まれた。この試合に勝利したこともあってだろうか、マネージャーや控え部員らが一列になり、球場外へと引き上げる選手たちと笑顔でハイタッチを交わしていく。慌ただしく通り過ぎるユニフォーム姿の集団をしっかりと凝視し、木野の姿を確認した。彼とは面識などはまったくなかったが、趣旨を説明すると快く話をしてくれた。
 試合中に聞けるものとは違い、それほど高くない声で受け答えをする。丁寧に、はにかみながら柔らかい表情で。少しのやり取りがあって、木野が「渡邉さんを目標にしている」と教えてくれた。この言葉を聞いた瞬間、心の中は喜び狂ってお祭り騒ぎ。この最高の一言をもらうことができて、本当に嬉しかった。木野に話を聞いて間違いなかったと確信できた。
 最高学年になり、主将を任された木野学。チームだけでなく、東都大学野球リーグさえも引っ張って盛り上げてほしいと願う。いつも元気溢れるプレーを見せてくれる木野ならば、きっとそうなると信じている。

110219kino02國學院大を卒業する渡邉貴美男(JX-ENEOS)に代わる東都の元気者として、今季の木野に期待したい

 先月から洞察力、キャプテンシーという点で渡邉が直接指名してくれた清水隆弘(國學院大)と、選手タイプ、キャラクターで後継者として木野を取り上げた。この2人の活躍を楽しみに開幕を心待ちにしたい。

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は3月中旬頃の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。昨春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2011-01-24

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第24回)

110124shimizu01 お正月ムードも吹き飛んでしばらく経ち、今さらとなってしまいましたが本年もよろしくお願いいたします。
 最近は寒さが厳しくなってきましたが、もうしばしの我慢で野球シーズン到来ですね! 
 さて、前回もお伝えしましたが、1月、2月は『野球小僧12月号』に掲載されている【渡邉貴美男ファン倶楽部】内で渡邉選手の後継者として、清水隆弘捕手(國學院大)、木野学内野手(青山学院大)をご紹介いたします。今回は清水捕手の回です。

      

清水隆弘(國學院大) ~渡邉貴美男とは好対照な後継者

▼苦労の末に正捕手を奪取

 清水隆弘(酒田南)は、國學院大が二部リーグに降格した直後の1年時から試合に出場している。キャッチャーという重要なポジションながら下級生から経験を積み、実績も十分だ。しかしながらこれまでの道のりは決して平坦であるはずもなく、山あり谷ありの3年間だった。
 1年春、チームは最下位に沈み、三部との入れ替え戦を経験。その悔しさをバネに臨んだ秋季リーグで國學院大は見事に優勝を収めた。その間、清水は1年生ながら全試合でマスクを被っていた。一部最下位の日本大との入れ替え戦は、苦しみながらも見事2連勝。一部復帰を決めた。
 しかし、このときの第2戦だけで、國學院大は日本大になんと6盗塁を許している。盗塁を刺すという行為は、バッテリーの共同作業だと思うし、清水は途中でベンチに退いるので全責任を負ういわれはないが、この数字に対して清水が何も思わないわけがない。総じて考えると、この1年は酸いも甘いも経験する時期となった。

110124shimizu021年の頃からリーグ戦に出場していた清水だが、その後は試合に出られない時期もあった

 ひと冬越えて、翌年春のリーグ戦。國學院大は一部残留も難しい東都リーグの中で、なんとか最下位を回避したが、清水自身はシーズン通してあまり活躍できずに終わった。
 そして秋季リーグ。開幕戦こそ指名打者でスタートした清水だったが、2戦目からは正捕手としてスタメンに名を連ね、攻守の軸とした活躍。終わってみれば打率.333でリーグ4位、ベストナインも獲得した。1年時から試合に出ていながら、その後は自らのポジションを掴み切れずにいたが、これでようやく定位置を不動のものにしたかに見えた。

 だが――。3年生となった昨年春のリーグ戦で、清水はまた不安定な立場に戻ってしまった。ベンチスタートの日もあれば、外野手として出場する日もあるなど、決して満足いくものではなかった。チームも優勝争いに食い込むことなく4位に終わる。
 次の秋季リーグ戦では、國學院大が大きなことを成し遂げる。なんと、創部以来初となる一部優勝を成し遂げたのだ。清水は…といえば、自身の成績だけ見ると打率.140と、満足などできるものではなかったが、一方で、全試合フルイニング出場を果たし、エース左腕の高木京介(星稜)を欠く中、投手陣を引っ張った。間違いなく正捕手というポジションをその手に収めたと言えるだろう。

     

▼渡邉貴美男の後継者として指名した理由

 渡邉が自身の後継者として指名してくれた清水。しかし正直なところ、彼の名前が挙がることはまったく予想もしていなかった。渡邉と清水はまったく正反対に映っていたからだ。
 柔らかな雰囲気の中、表情豊かに話を聞かせてくれる渡邉とは対照的に、清水は何か強いオーラを感じてしまう。大げさにいえば話しかけにくいと思ってしまうほど、一切の隙がないのだ。もちろんこちらが質問すれば、ひとつひとつ丁寧に答えてくれるのだが、どっしりとした風格が漂っている。
 その表情はグラウンドでも変わることはない。バッターボックスの清水が2ストライクと追い込まれ、続いて投じられたボールが際どいところへと行った。それを見送った清水の表情は“ドヤ顔”(渡邉談)。「はい、ボールね」。そう言わんばかりのドヤ顔である。
 四球を選んだ時も同様だ。「はい、一塁行きますよ」と、失礼ながらそう読みとってしまう顔を見せる。
 だが、それを見ても嫌な感じを受けることはなかった。それどころか、またその表情を見たいとさえ思ってしまうから不思議だ。

110124shimizu05打撃を活かして、DHや外野で出場した経験もある

 昨秋の国士舘大戦で、こんなことがあった。ランナーを置いた場面で、打順が回ってきた清水はバントの構えをしたが、投球が指に当たった。死球なのか空振りなのか、判定に少し時間はかかったのだが、清水はひどく痛がっていた。ようやくデッドボールと最終的な判定が下されたが、痛みは治まらないようだった。
 結局このイニングは点を奪えずに終わったのだが、気になるのは清水の状態だ。3アウトチェンジとなり、すぐにホームへと守備についた。しかし投球練習の最後にセカンドへ送球する際、緩く山なりのボールだった。
 まだ痛いのではないか。出場し続けて大丈夫なのだろうか。そんな私の不安をよそにプレーがかかる。国士舘大はヒットでランナーが出塁すると、予想通りランナーがセカンドへ盗塁を仕掛けてきた。
 しかし、投球を受けた清水は、素早くモーションを起こしてセカンドへ送球。アウト! これには言葉を失うほど驚いた。数分前とは別人のような、力強いスローイングだった。

 痛がったのは演技だったのだろうか。私はまんまと騙されてしまったのだろうか…。何だか少し、単純な自分が恥ずかしくなってしまった。しかしそれも、清水が滅多に感情を表に出すことなく、隙も見せずにやってきていたからだとも思う。そう自分に言い聞かせている。

 春季リーグ開幕まであと3カ月を切った。最上級生としてチームを引っ張る清水が、どのように進化を遂げて神宮に現れてくれるのだろうか。でも、ドヤ顔だけはそのままでいて欲しい。

      

(山田沙希子)

    

110124shimizu03最終学年となる今年は、チームの牽引車として期待したい

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は2月中旬頃の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。昨春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2010-12-17

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第23回)

 先月行われた明治神宮大会・大学の部は早稲田大学の初優勝で幕を閉じました。東都代表の國學院大は初戦で九州産業大に敗れ、東都勢の大会5連覇はならず。閉幕してからだいぶ経つと思っていたら、まだ1カ月ちょっとしか経過していません…。オフシーズンはまだまだ長いです。
 さて、今年も残すところわずか半月というところに来ています。今年最後の選手は國學院大の渡邉貴美男選手。お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、当ブログの第2回目ですでに紹介しています。さらに『野球小僧12月号』でも【渡邉貴美男ファン倶楽部】と題してインタビュー記事を掲載していますが、この1年も渡邉選手で締めくくりたいという想いが強くありました。
 そこで今月は渡邉貴美男選手、年が明けた1月、2月は本誌で渡邉選手の後継者として挙げた國學院大の清水隆弘選手と、青山学院大・木野学選手を紹介する予定でいます。
 ぜひご一読ください。

         

渡邉貴美男(國學院大) ~東都4年間で常に美声を張り上げた男!?

101214kimio03 國學院大を初のリーグ優勝に導く大きな原動力となった渡邉貴美男(文星芸大付)。キミオの愛称で親しまれる彼は、大きな声が最大の持ち味であり、魅力でもある。今では改めて説明する必要もないほど浸透しているのではないか。渡邉自身、野球を始めた頃からそれを意識しているのだが、声を出すという行動そのものを意識しているのではなく、声の持つ重要性を理解して常に頭に入れているように感じてならない。
 さらに底抜けに明るいキャラクターにも惹かれてしまう。
優勝を決めた亜細亜大戦でのこと。バッターボックスの渡邉は非常に窮屈そうに体を縮めて投球をカットした。言ってしまえば、とても不自然な形。インコースに来たボールに対して、体を丸めて反応したのだ。
「何だあれは」
 驚きとともに、そう感じてしまった。
 このことを鳥山泰孝監督に話すと「それが彼の真骨頂です」と言う。他にも渡邉はミートするときに、(このままだとショートゴロになる)と思うと、瞬間的に調整してヒットにしてしまう、とも教えてくれた。先に書いた、窮屈そうにカットした場面は渡邉らしさが光っていたシーンでもあったのだ。
 そしてその打席で出塁し、ホームを踏んだ渡邉は喜びに沸く選手たちと一通りハイタッチし終えると、先ほどの不自然なスイングをおどけながら繰り返した。これもまた紛れもなく渡邉らしい一面だ。

 ただひたすらに声を張り上げていたのは以前の話。4年生になってからはすっかりおとなしくなっていた印象だ。その代わりに他の選手から元気が伝わってきた。
 1年生にして開幕戦にスタメン出場した石川良平(桐蔭学園)がその最初。打席に入るなり「ッシャー!」と低い声が飛び込んでくる。キミオイズムが浸透したのかと、少し笑顔になったのを覚えている。

101214kimio01主将として秋季東都大学リーグの優勝旗を受け取る渡邉貴美男。4年生になって声の出し方も変化した

 それは控え選手も同様。檄を飛ばしたり喜びを表現したり、明るい雰囲気がベンチを包み込んでいた。
 そういう様子を感じ取っていた渡邉はその役を仲間に託し、自らは細やかな指示などに徹していた。声を出せば良いというわけではない。チームの雰囲気が良くなったからそれで終わりではない。では次に自分のするべき仕事は何なのかということを、自分で見つけて行動に移している。
 それでもやはり、渡邉の美声を心待ちにしてしまう。以前は待たずして聞こえた持ち味を、いつになったら味わえるのだろうか。
 彼は言った。
「ここが勝負だと思ったら声は出しますよ。それが序盤だとしても、ココだと思えば」
 明治神宮大会の九州産業大戦。1点ビハインドで迎えた7回、國學院大は先頭の澤田がヒットで出塁し、続く畠山が犠打を決めて1死二塁。ここで打席に入った渡邉は「ッシャー!」と気合いを込めて叫んだ。
 一部の観客は「待ってました!」とばかりにその声に沸いた。それは渡邉自身がこの場面を勝負所と読んだ瞬間だった。これは頼もしいと感じた。渡邉貴美男という選手は、何かしらやってくれるような気がしてならない。理由はないのだが、「きっと渡邉ならば…」という期待が常にあるのだ。それに加えて先に書いた雄叫びを聞かせてくれたから、ハラハラするのではなくワクワクするような気持ちでその行方を見守った。

 しかし――。
 彼の放った打球は一塁手のグラブにダイレクトに収まった。澤田が帰塁するよりも前に、一塁手から送球を受けたニ塁手がセカンドベースを踏んでいた。まさかのダブルプレー。きっと球場にいた誰もが予想しえなかった結果が与えたダメージは大きかった。

101214kimio02明治神宮大会で敗れ応援団に挨拶。大学野球生活は終了した。今シーズンからはJX-ENEOSで社会人の星を目指す(左から4人目が渡邉貴美男)

 結果は2-4で初戦敗退。渡邉の、そして國學院大のシーズンが終わった。しかしこの試合は日曜日ということもあってだろう。大勢の観客がおり、渡邉への声援が特に数多く聞かれた。「キミオー!」という複数の声に、「ミキオー!」という声も混じっていたのだが。
 渡邉は今後、JX-ENEOSに進んで野球を続ける。社会人では以前のような大声とともにプレーするのか、それともまた別の役割を見つけるのだろうか。渡邉本人の今後も当然気になるところだが、國學院大の後輩も同様だ。
 渡邉をはじめとする4年生が残してくれた魂、雰囲気をしっかり引き継いでプレーしてくれるのか。キミオイズムを継承した選手がどれほど現れてくれるのか。
 春が待ち遠しくてならない。

       

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2010-11-15

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第22回)

 『いぶし銀』の観戦眼をもつ女性東都ウオッチャー・山田さんが観戦拠点のホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「戦国東都 いぶし銀観戦記」。22回目の今回は、國學院大の外野手・田渕雄飛選手です。この秋、リーグ優勝を果たした國學院大ですが、大学生活最後のリーグ戦でついに結果を出したヒーローの活躍ぶりを山田さんの目で語ります。ぜひ、ご一読ください。

    

      

Butter_tabuchi_2田渕雄飛(國學院大) ~控えから一躍表彰選手に輝いた選手はやさしき好青年!?  

 今秋の東都を制した國學院大学。突出した選手がいないチームが手にしたリーグ初優勝だが、やはりそこには4年生の活躍があった。
 3割8分9厘と堂々たる数字を残して首位打者、ベストナインのW受賞を果たした田渕雄飛(法政二)外野手もその内の1人だ。出場機会も代走や守備固めが主だったこの選手が、自身最後となるシーズンで一花咲かせてくれた。
 これまでの田渕のイメージは足が武器という選手であった。そしておとなしいということ。勝負に燃える心はもちろんあるだろうが、それを窺えないのだ。いくらおとなしいと思われる選手でも、1試合見ていればそれが垣間見える瞬間はある。私の田渕の印象は、心やさしい青年にしか見えなかった。

 話を戻そう。
 失礼ながら田渕のバッティングは、東都大学リーグの中で秀でていると感じたことはない。しかしながら、持ち味の俊足を生かした最高のプレーを見せてくれたことがある。
 今年の春季リーグ開幕直後の対国士舘大3回戦。まだ田渕がスターティングメンバーとして確固たるポジションを手にする以前のことだ。開幕カードゆえ、この試合を取ってシーズンをスタートするのとしないのでは、この先の心の持ちようはまったく違ってくるはず。是が非でも落とすわけにいかない気持ちは國學院大も国士舘大も同じだ。結果から言うと、この一戦は3-2と國學院大が接戦をものにした。
 このとき結果的に決勝点となる3点目を奪ったのは、國學院大の機動力であり、田渕の足だった。
 國學院大が2対0でリードして迎えた5回。2死から死球とヒットで一塁、三塁のチャンスを作り、サードランナーは代走の田渕。ここでファーストランナーの渡邉貴美男(文星芸大付)がスタートを切る。投球を受けたキャッチャーは二塁へ送球。すると田渕は何の迷いもなくホームへ一直線に突入。ダブルスチールで3点目をもぎ取ったのだった。

Runner_tabuchi今春の東都リーグまでは、俊足をいかした代走など、控えだった田渕

 國學院大は、その裏に1点差に詰め寄られたので、結果的にこの足で奪った1点が決勝点ということになる。
 しかしこれ以降、彼がレギュラーの座を手にするまでには至らなかった。國學院大では投手登録の畠山翔平(能代)が外野手として活躍を見せており、それに対する複雑な心境はあっただろう。それでも、彼が控えにいるということは、それだけで脅威に思えた。先の場面のように、2死からでも、連打がなくとも1点を奪うことのできる、とっておきの武器なのだから。
 
 そして今秋。
 彼がスタメンに名を連ねるようになったのも、2カード目の対東洋大戦からようやくであった。そんな経緯もあって、途中出場した試合で田渕がヒットを打つと、特別に嬉しく感じていた。やはり4年生の活躍は見たいし、それが田渕のように控えの選手だったのならその喜びもひとしお。逆を言えば、そんな場面はそうそう見られないだろう…という失礼な見方とも取れる感情だった。
 しかしながら最初に書いたとおり、彼は私のそんな予想を見事に裏切ってくれたのだ。それも、首位打者&ベストナインという、これ以上ない、最高の形で。

 でも1つ、予想通りの点もあった。
 ある試合でバッター田渕のファウルチップがキャッチャーをかすめたのだ。痛がるキャッチャーにコールドスプレーがかけられる。打席を外して素振りをする田渕だが、ちらっと捕手の様子を見ている。でもそれ以上は何もしない。このようなシーンは数多く見ているが、たいていの選手が同じような対応をしている。
 捕手の痛みも和らいだのか、またプレーが再開された。打席へ入った田渕の口が「ごめん」と動いたのを見逃さなかった。しかもキャッチャーを心配そうに見つめながら。
 やっぱり田渕は心やさしい青年だった。

Reading_hitter_tabuchi今秋の東洋大戦からスタメンに名を連ねるようになると、そのまま出場しつづけ首位打者を獲得。創部以来初となるリーグ優勝の原動力となった

 キャプテンの渡邉が開幕前にこう言ってくれた。
「秋は日替わりでヒーローが生まれてくれればいい」と。
 確かにそういうシーズンだった。もちろん田渕がヒーローだった試合もある。
 残された明治神宮大会では誰がヒーローになるのか、どんなヒーローが誕生するのか。
 今から楽しみでならない。

      

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1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2010-10-11

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第21回)

▼東都の秋、ついに開幕!

 『いぶし銀』の観戦眼をもつ女性東都ウオッチャー・山田さんが観戦拠点のホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「戦国東都 いぶし銀観戦記」。21回目の今回は、東京農業大の捕手・財満征史選手のレポートです。レベルの高い東都2部において、何度も優勝争いを演じながらあと一歩で栄冠に手が届かない東京農業大。「今季こそ」の意気込みでチームを牽引する財満選手のプレーぶりについて、山田さんの目で語ります。ぜひ、ご一読ください。

    

▼著者よりごあいさつ

 秋の肌寒さを感じたかと思えば、強い陽射しに汗を流したり。
 神宮へは何を着ていけば良いのだろうかと、連日悩んでしまいます。日焼け対策でエステへ通う日々はまだまだ続きそう。焼けることが怖いからといって、東都を諦めるという選択肢はありません!
 そんなシーズンも中盤から終盤にさしかかり、優勝争い、はたまた最下位回避が熱を帯びてきています。一部、二部ともに勝ち点2で4校が並ぶという混戦模様。一部は未消化カードがあるために、優勝の行方が明らかになるのはまだまだ先になりそうです。

      

Zaima01財満征史(東京農業大) ~打撃の進歩著しい“明るい正捕手”が最後のシーズンに期するもの

 現時点で勝ち点2ながら勝率の差で2位につけている東京農業大は、近年優勝争いを繰り広げながらも最終的にはそれを逃している。あと一歩、といえばそうなのだが、その壁に何度も泣かされた。そしてその涙の数が多いほど、優勝にかける思いは一層強いのではないだろうか。
 最終シーズンを戦っている財満征史(高陽東高)もそう思える選手の一人だ。
 正捕手として試合に出場するようになったのは4年生になってから。それ以前にもベンチ入りはしていたし、わずかながらマスクを被ったこともあったが、それほど強く印象に残るプレーヤーではなかった。

 以前、農大のグラウンドで財満と話す機会があった。
 ちょうどお昼前後だったのだが、「昼食はとりました? 近くにおいしいラーメン屋さんあるんですよ。つけ麺がおすすめです。女性は大盛りは無理ですね、太麺だから」と、満面の笑みで言ってくれた。
 ん? 私は大盛りを食べそうに見えるのかな? でも女性って認めてくれてる…!
 今でもその言葉と口調、それに対する自分の心境を鮮明に覚えているほどインパクトの強い出来事だった。
 こんなに親しげに話してくれる選手は滅多にお目にかかれない。とにかく明るい、その一言だった。ではこの選手は一体、グラウンドではどんな表情を見せてくれるのだろうかと、試合が待ち遠しくなった。

Zaima02_2今季、見違えるような打撃を見せるようになった財満

 実際の試合で財満を見てみると、もちろん時と場合にもよるが、彼の笑顔を見る機会はやはり多い。しかしながら、選手としてはなかなか思うように活躍できてはいなかった。先ほど“正捕手”という表現をしたが、途中で交代させられベンチから戦況を見つめることもしばしばあった。
 そして代打を送られることも。バッター財満として、やはり物足りないものはあった。下位を任されることがほとんどだが、ここで財満が打っていれば…と思わずにはいられない試合もある。下位の選手が打ってくれたら、農大は脅威的な打線になっていたはずだ。

 しかし、この秋の財満は違う。
 開幕戦に敗れて迎えた日本大との2回戦でのこと。0対0のまま迎えた5回にランナーを1人置いて打席に入った財満は、追い込まれながらも思い切りよくバットを振り抜いた。高々と舞い上がった打球がレフトへと消える…。打った瞬間にそれと分かる先制2ランだった。

 ちょっと足早にベースを一周する財満。実はこれが大学初アーチであった。まだ試合の決着がついていないとはいえ、嬉しくないはずがない。ベンチはもうお祭り騒ぎ。彼は当然のように満面の笑みと歓声で迎えられた。
 だが、当の本人の表情は締まったまま。もし、立場が逆だったら…。財満が出迎える側なら、きっと笑顔を爆発させていただろう。ラストシーズンにかける財満の確固たる思いを感じさせるシーンだった。

Zaima03_2大学初ホームランを放ち、チームメイトに迎えられる財満。これまでは明るく振舞うことが多かったが、今季は抑え気味。ラストシーズンにかける意気込みが伝わってくる

 この試合以降もタイムリーあり、チャンスを広げるヒットあり。このようなことを言うのは失礼だが、財満の打撃は昨季からは想像もできない内容に変貌をとげた。
 彼の一振りが、これまで農大に立ちはだかっていた高くそびえたつ壁を乗り越え、優勝に向かう追い風になることを願ってやまない。そのときはきっと、抑えることなく喜びをいっぱいに表現してくれるだろう。

 農大は残り2カードを残して、勝ち点2。可能性は十二分にある。

      

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2010-09-13

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第20回)

▼東都の秋、ついに開幕!

 『いぶし銀』の観戦眼をもつ女性東都ウオッチャー・山田さんが観戦拠点のホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「戦国東都 いぶし銀観戦記」。20回目の今回は、国士舘大の内野手・津田勇志選手のレポートです。昨季久々に1部昇格を果たし、見事残留を果たした国士舘大。そのホットコーナーで大きな声をあげる津田選手のプレーぶりについて、山田さんの目で語ります。ぜひ、ご一読ください。

      

100913tsuda03津田勇志(国士舘大) ~独特の声出しでチームを盛り上げろ!

▼サードから響く声の主は…

 開幕戦は今春に優勝し、日本一にも輝いた東洋大と、1部昇格直後のリーグ戦をなんとか乗り切って残留を果たした国士舘大の対戦だった。
 東洋大の先発は8月に行われた世界大学選手権の日本代表にも選出された藤岡貴裕(桐生一高)。一方の国士舘大は長身から繰り出される速球が持ち味の屋宜照悟(中部商高)。結果的に延長戦の末2対0で東洋大が先勝したのだが、その行方以上に注目していた選手がいる。
 強い日差しの中で始まった試合に、ちょっと高めの爽やかに透き通る声が響いてきた。
「屋宜さぁん! 腕振って! 腕振ってー!」
 屋宜“さん”というくらいなのだから、屋宜よりも年下なのだろう。グラウンドでは学年は関係ないとはいえ、これまで先輩に対する叱咤を聞いたことは記憶になかった。ああいう檄を受けて憎む選手などいないとは思うが、それは本当に憎めないものに感じた。
 試合とともにその声も気にしていると、ようやく声の主が分かった。サードを守る津田勇志(光星学院高)だった。国士舘大の試合は以前から見ていたし、津田のプレーも見たことはある。しかし、このように声で盛り立てていたという印象は正直に言ってなかった。特別目立つ存在ではなかった津田だが、試合が始まってわずか十数分と言ったところだろう。藤岡でもなく強力な東洋大の打線でもない、津田が気になってしょうがなくなった。

 その後も津田はよく通る声で叫んでいる。
「屋宜さぁん! いいよ、ナイスボール!」
 屋宜さん! でも、屋宜さーん! でもない。「屋宜“さぁん!”」なのだ。これが憎めないと思った理由なのかもしれない。
 そして時にその声はキャッチャーの青山直樹主将(市立船橋高)にも向けられた。ランナーが一塁の場面、津田は腕を振る仕草を見せて「青山さぁん! (盗塁)あるよー!」と叫んでいた。
 こういった動きを見ていると、声かけ以外の所作も気になるもの。東洋大の攻撃が終わり、ベンチへと帰っていく津田の姿を追うと、マウンド付近を転がるボールを拾い、東洋大の一塁コーチへと渡していた。そういった、さりげない小さな心遣いにも嬉しくなった。

100913tsuda02秋のリーグ戦初戦となる東洋大戦に2番・サードで先発した津田

▼声の出し方にも個性あり

 試合が進んでいくと、今度は反対の方から声がしてきた。一塁手の井上雄貴(国士舘高)だった。屋宜がノースリーとカウントを悪くすると、マウンドに向かって何か伝えている。三塁側で見ていた私はどんな言葉だったのか聞き取ることができなかったが、積極的にピッチャーに、そして外野手に声を出していた。
 この日はセカンドが今江孝臣(平安高)、ショートは西川元気(桐光学園高)。安定した守備が持ち味の2人が守っていた。この2人は津田や井上と違い、大声で盛り立てる場面は見られなかったが、それでも投手に近寄っては何やら一言、二言伝えている。
 それぞれにはそれぞれのスタイルがあるのだろう。対照的な内野陣が見せる表情がおもしろい。今度は誰がどのようなことを言うのだろうか。次の「屋宜さぁん!」はいつ聞こえるのだろうか。

▼スタメン復帰目指せ!

 しかしながら、打席での津田はというと、まるで別人になったかのように静か。気合を入れるために叫ぶこともなく、ただひたすらにピッチャーと対峙している。
 この日は藤岡の前に2打席連続空振り三振を含む3打数無安打と、まったく合っていなかった。そういうこともあってだろうか。7回からベンチへと退いてしまった。
 津田が去ったグラウンドは、少しだけ淋しかった。
 投手戦が続いたこの試合は、最初に書いたように延長11回、坂井貴文(春日部共栄高)の2ランで決勝点を奪った東洋大が勝利。翌日の一戦も接戦の末、東洋大が勝って勝ち点1を手にした。その第2戦目に津田が出場することはなく、国士舘大は開幕カードを終えた。
 次に津田が神宮のフィールドに立つ日はいつのことになるか。ようやく待ちに待ったリーグ戦が開幕した東都の秋。津田の発する「屋宜さぁん!」が待ち遠しくなった。

       

100913tsuda01初戦以降、スタメンから外れているが、またあの独特の声かけを聞きた

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2010-08-23

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第19回)

Bruno▼そろそろ東都の秋が近づきつつあります

 『いぶし銀』の観戦眼をもつ女性東都ウオッチャー・山田さんが観戦拠点のホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「戦国東都 いぶし銀観戦記」。19回目の今回は、亜細亜大のレギュラー捕手・ブルーノ平田選手のレポートです。どんな季節でも熱い野球を展開する亜細亜大の扇の要たるブルーノ選手のプレーぶりを山田さんの目で語ります。秋のシーズンに備えて、ぜひ、ご一読ください。

      

ブルーノ平田(亜細亜大)

代打の切り札から亜細亜大を盛り上げる正捕手に

 今春の亜細亜大学はとても元気で、明るかった。それは試合前のノックから見てとれるほどで、見ていて気持ちが良い。私は元気いっぱいに野球を楽しむことが、学生野球にとって大切なことだと思っている。それがたとえ戦国東都だとしても、そうだ.
 亜細亜大は『全力疾走』のスローガン通りのチームである。いや、正直に言えば、今春開幕前まではそういうチームで“あった”という認識だった。元気はあるが、物足りない。『全力疾走』という部分でも、他大が先を行くような印象を最近は抱いていた。
 それがたった1試合の開始前。シートノックが始まってすぐに今までとの違いが分かった。
 今年のチームは強い――。優勝争いを繰り広げたという結果を知っている今、そう書いても説得力などないだろうが、私は確かに感じた。
 その中でも特に目立っていたのが、ブルーノ平田(八王子高)だ。ブラジル出身の彼は、中学校を卒業すると日本へとやってきた。

 以前、亜細亜大の激励会に参加させてもらったことがある。そのときに「ご飯はどうですか? おにぎりは?」と話しかけてくれたのがブルーノだった。とても流暢に、笑みを浮かべながらぼそっと尋ねてくれたことを今でも覚えている。
 しかし、グラウンドに立てばチームを大声で盛り立てるし、何より自分の気持ちを乗せようという感じがする。
 キャッチャーとして内野ゴロの際に一塁ベースのバックアップに走り、アウトがコールされると「よーし、オッケー!!」と声を張り上げる。とにかく元気なのだ。もちろんバッターとしてもそう。ヒットを打てばベース上で何かを叫ぶ。こちらは何度も聞き取ろうとはしたものの、叶わなかった。おそらく母国語なのであろうか。
キャッチャーマスクを打者に拾ってもらったとき、あどけない笑顔でそれを受け取っていたこともある。どんな場面でも、見ていてとても惹かれてしまうのだ。

Start_knock亜細亜大のノック開始前。全員で大きな声を上げてからグラウンドに散っていく独特の風景だ

 この春は「4番キャッチャー」として定着したブルーノだが、私の中では代打の切り札というイメージがあった。
 そこで過去を遡って見てみると、これまでの通算代打成績は8打数4安打で.500。調べて気付いたのだが、私が思っていたよりも代打に立っていなかった。きっと、ここぞの場面でしっかり結果を残していたから強く記憶に残っているのだろう。
 昨年秋の國學院大との一戦は、自軍が東浜巨(沖縄尚学)、國學院大は高木京介(星稜)と両エースの投げ合いだった。両チームともに1点は取るものの、なかなか主導権を握れない。いつまで続くのだろうか、とは思ったものの、いつまでも見ていたいとさえ思った。
 しかし、それは9回に破られた。亜細亜大の先頭打者が敵失で出塁すると、犠打で得点圏へと進める。そこで代打として告げられたのがブルーノだった。
 代打・ブルーノ――。
 当時はもちろん代打成績など調べていなかったが、それまでの印象や雰囲気から、何かあるのではと感じるものがあった。
 高木が投じた初球を振り抜くと、打った瞬間それと分かる勝ち越し2ラン。この2点が決勝点となって、亜細亜大は初戦をものにした。

Brunos_batting下級生時代は代打やDHが多かったブルーノだが、この春は4番キャッチャーでの出場が多かった

 一打席、一振りに強いという印象に間違いはなかった。しかしその一方で、スタメン出場だと今一つ結果を残せていないという印象が私の中にあったことも事実。もちろん何打席も立てばヒットは出るだろうが、代打でのブルーノとスタメンでのブルーノに大きな違いを感じた。事実、翌日の試合は6番指名打者で出場もノーヒット。やはり前述したような印象が強く刻まれる結果となった。
 しかしこの春は違う。打率.272、7打点は4番打者としては物足りないかもしれないが、キャッチャーとしてチームを盛り立てる存在では非常に大きかった。これは代打では果たし得ない役目。マスクを被っているからこそできることなのだ。
 昨春は負ければ中央大の優勝が決まるという一戦で、亜細亜大は踏みとどまった。試合が終了した瞬間、やはりブルーノは声を張り上げてガッツポーズ喜びをかみしめていた。

Catcher_bruno大きな声と笑顔でチームを盛り上げる。この秋は悲願の優勝なるか?

 野手としてバッティングは当然大切なことだ。しかしながら、それだけが全てではない。大声を出して、チームを鼓舞することだって重要な仕事。近年まれにみる存在だっただけに、春はブルーノに注目しきりだった。しかし、あと一歩まで迫った優勝は、自身最後のシーズンへと持ち越された。
 ブルーノの声とバットがチームを盛り立て、仲間たちと元気いっぱいに勝利に沸く亜細亜大ナインが楽しみだ。

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は9月中旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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http://www.tohto-bbl.com/

       

■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2010-07-12

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第18回)

▼夏のこの時期も東都の話題はつきませぬ

 『いぶし銀』の観戦眼をもつ女性東都ウオッチャー・山田さんが観戦拠点のホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「戦国東都 いぶし銀観戦記」。18回目の今回は、昨年秋にリーグ優勝を果たしながら、今春まさかの二部落ちとなってしまった立正大のレギュラー一塁手・佐藤健太選手のレポートです。

      

100712satoken05佐藤健太(立正大)

二部落ちの悔しさを胸に秋に臨む

 スコアボードに刻まれる‘佐藤健’の表示に若手俳優を思い出してしまう。立正大の一塁を守る彼の名は、正確には佐藤健太(日大三)という。
 雰囲気はどことなく1学年上の小石博孝投手(NTT東日本)に似ている。背格好はそこまで似ていないし、ポジションも違う。それでも2人にはどこか通ずるところがあるような気がしてならなかった。
 佐藤はファーストのポジションからよく声を出し、ナインを鼓舞している。しかしその声が目立ってしょうがないほどではない。
 理由は分からないが、何となく気になる存在であったことは確かだ。両足を揃えて構え、小刻みに足踏みするようなバッティングフォームにも注目していた。しかしそんな佐藤の存在が決定的になったことがある。
 それは今春の國學院大戦でのこと。同大のキャプテンを務める渡邉貴美男は元気でいっぱいだ。打席でも、守備位置でもその声は響き渡る。そんな元気印をバッターに迎えた時だった。当然いつものように渡邉は「シャー!」と高い声で気合を入れる。するとすかさず反対側から「おーい!」というような今度は低い声が耳に飛び込んできた。それは佐藤から発せられたもので、心なしか普段よりも大きい声に聞こえてならなかった。
 そしてそれは思い違いでも、偶然でもなかった。やはり渡邉を前にするとそれに負けまいと対抗しているよう。
 ――おもしろい。
 率直にそう思い、それからは佐藤の言動がより気になるようになった。
 そういえば小石も、ベンチでは大きな声で味方に激を飛ばしている。ピンチを脱してマウンドから引き揚げてくるとき、彼は笑顔だった。

100712satoken01國學院大戦では、相手ショートの渡邉貴美男に呼応するかのようにいつもより声を出していた佐藤

 立正大は開幕から勝ち点を挙げられずに最終カードを終え、勝ち点ゼロで最下位に沈んだ。入れ替え戦で対する青山学院大学は、昨秋に1部最下位から2部降格を味わったチームだ。
 初戦は落としたものの、2戦目はエース南昌輝(県和歌山商)が先発して勝利。1勝1敗のタイに持ち込んだ。

 立正大は昨年こそ日本一に輝いたが、数年前までは1部と2部を行き来するようなチームだった。佐藤自身出場こそないものの、神宮第二球場と2部リーグはよく知っているはずだ。神宮第二球場はゴルフの打ちっぱなし練習場としても利用されている。ブラスバンドの応援も制限されており、同じ東都とはいえ1部と2部の差は大きく開いている。そして何より2部にいては日本一になる権利がない。昨年の秋にリーグ優勝を果たし、明治神宮大会も制して立正大は日本一になったわけだが、2部に落ちてしまっては神宮大会連覇は決して叶わないものになる。
 しかしそれは青山学院大にも言えることだ。ここで上がれなければ、4年生は1部でプレーすることが不可能になる。
 どちらにとっても負けることのできない第3回戦は、両校のエースが先発を任された。青山学院大は初戦に先発して1失点完投勝利の福島由登(大阪桐蔭)。立正は連投で南だ。
 佐藤は1番ファーストでスタメン。これまで7打数1安打と結果は残せていない。
 試合は1対0と青山学院大リードのまま進み、5回を迎える。
 力投を見せていた南がヒットに野選、四球で無死満塁のピンチを招くと2点タイムリーを打たれて降板。2番手の村山聖(朝霞)もタイムリー、3ランを浴びてこの回6失点。これ以上の失点は許されない展開となったが、ようやく3アウトチェンジ。長かった青山学院大の攻撃を終え、佐藤が勢いよく定位置からベンチへと戻ってくる。福島のこれまでのピッチングを考えれば、覆すのが容易ではない点数だが、士気を落としてはいけないとばかりに大きな声を出して戻ってきた。それが佐藤の素晴らしい点であり、目を奪われてしまうところだ。

100712satoken03青山学院大との入替戦に敗れ、しばらくその場から動けなくなった佐藤

 とはいえ、立正大打線はなかなか福島を攻略できず、試合は最終回へと入る。2アウトを取られてバッター佐藤。ここまで無安打に抑え込まれていた佐藤が放った打球はショートへ。遊撃手が一塁へと送球すると、佐藤はヘッドスライディングを見せる。判定は、セーフとなった。

 しかし、後続が倒れてゲームセット。7-0で青山学院大が勝利し1部復帰。同時に立正大の2部降格が決定した瞬間だった。ランナーだった佐藤は二塁、三塁ベースをかけてホームの集合列へと加わった。互いにあいさつが終わり、それぞれがスタンドへと向かうとき、佐藤はもう下を向いて歩くことすらできなかった。仲間に体を支えられても立っていることができずに膝をついて崩れ落ちる。涙に暮れた佐藤と、彼の両脇を支えた南と上地俊樹(浦添商)は、一番最後にベンチへと引き上げていった。
 初めて見る佐藤の姿に、正直ショックを受けた。試合終了の直前まで、勝利を信じていつも通りのプレーを見せた。しかしその後に彼が見せた姿を見ることに耐えられなかった。敗戦、しかも2部降格という大きな衝撃は佐藤本人の方が確実に大きなものに違いない。チームを2部に落としてしまうというのは、それほどまでに大変なことなのだ。

100712satoken02南や上地に抱えられるように引き上げる佐藤。気持ちを切り替え、秋は二部での活躍に期待したい

 佐藤にとって最後のシーズンは、神宮第二球場が舞台となる。場所は違えど佐藤の元気あるプレー、そしてチームを引っ張る姿勢は変わらないものであるはずだ。もちろん、変わってほしくないという願望もある。混戦の東都2部を制することは容易いことではないが、大学最後の試合は神宮球場で佐藤の笑顔を見ていたい。

     

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は7月初旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2010-06-14

女性東都ウオッチャー・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第17回)

戦国東都! 名前も新たにリスタートです

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」

 …とこれまでうたってきたのですが、先日筆者の山田さんから

「とても重要なことを忘れていました。私は3月に大学を卒業しました」

というメールが届きました。な、なんと!

そこで、 「現役大学生ながら、『いぶし銀』の観戦眼をもつ山田さんがお届けする東都大学リーグのレポート」 のくだりを「『いぶし銀』の観戦眼をもつ女性東都ウオッチャー・山田さんがお届けする東都大学リーグのレポート」に急遽変更して、今後ともお届けしていきたいと思います。

 今回、山田さんがスポットを当てたのは、東洋大の縁の下の力持ち・岡良祐選手です。

 それではスタートです!

       

100614oka_top岡良祐(東洋大)

王者を支える“影の主将”

 今春のリーグ戦を制した東洋大学。ちょうど1年前には戦後初の5連覇を達成したチームだが、昨秋は最下位の危機にさらされながらも、5位でシーズンを終えた。
 同校の2年生以上の選手は、たった1度の屈辱を除けばその他のシーズンでは優勝の味しか知らないことになる。岡良祐(東洋大姫路)もその内の1人だ。
 高校時代は今でもチームメートである乾真大や林崎遼らと甲子園に出場してベスト8に進出した。乾や林崎は1年時から試合に出場し、最近では大学日本代表に選出されている。もちろん東洋大の主力選手としてもチームを勝利に導く活躍を見せている。一方の岡はというと、表立ったプレーをしているとかそういうことはない。はっきり言ってしまえばリーグ戦出場自体が数えるほどしかないのだ。
 しかし彼がスターティングメンバーに名を連ねることはある。ただ、それは俗に言う『偵察メンバー』として。言うまでもないことだろうが、相手投手の予想がつかなければ偵察メンバーを使い、メンバー交換の後に先発投手が分かればそれに合った選手を起用する。右投手なら左打者、左投手ならば右打者を、ということだ。プロではその役目を登板機会がないであろう先発ローテの一角を担っている選手が担うことが多い。偵察として使われれば、その試合に出ることが出来なくなるのだから。
 東洋大は以前からそういう戦法を取っていたし、岡が初めてというわけではない。だが岡としてはどのような心境なのだろうか――。
 思い立ったらすぐに話を聞こうと思う性格なのは良いが、それがよりによって東洋大が優勝を決めたその日であった。リーグ優勝の喜びに浸っている最中に、このような質問をするのは忍びないと思ったのだが、岡は笑顔で快く答えてくれた。
「バッティング練習のときに言われるんですけど、気持ちは落ちますね(笑)」
それはそうだろう。喜びに満ち溢れているせいなのか、元々の彼の性格なのかは分からないが、ストレートにその心中を教えてくれた。
けど、と自らを納得させるような口調で続ける。
「それが仕事かなとも思います。技術がないから、何が何でも自分のせい」
 チームの為にやれることは、彼にとって大切な仕事なのだろう。

100614oka_01イニング間の投球練習を受け、正捕手の佐藤貴穂(右)にボールを託す岡(左)

 彼がただ、偵察メンバーというだけであったら、これほどに注目することはなかった。
 岡はベンチから味方に大きな声でゲキを飛ばしている。
「あと1点、あと1点、1点取っていこう!」というようなことをおそらく言っているのだと思うが、そうやって雰囲気を作っている。そして時にその声は、ベンチにいるメンバーにも向けられる。
「もっとベンチ声出していけよ!」と、こちらもおそらくそれらしいことを言っているのだろう。
 さらに彼は、味方の攻撃中に投手がキャッチボールをするが、その相手になっているのだ。登録は内野手だが、キャッチャー姿もしっくり来る。これまでの彼の出場機会は捕手と代走だ。
 グラウンドから少し視線を外して見てみると、岡の動きが止まっている瞬間があまり見られない。
 ベンチの外野寄りの端に陣取り、何かメモを取っていたり、ファウルボールが転がれば、すぐにベンチを飛び出して取りに行く。そのボールが転がる先に誰か選手やランナーコーチがいる、いないに関わらずだ。そして守備から引き揚げてくる選手たちを一番に出迎えている。
 
 東洋大のキャプテンは鹿沼圭佑(桐生一)だが、鹿沼は投手であるからベンチにいることがあまりない。そういうこともあって、岡がキャプテン代行を任されているそうだ。
『キャプテン代行として、練習中から意識を持っています。うちはおとなしい子が多いので(声出しなどを率先してやっている)』と笑顔だ。
 これらのことは決して簡単なことではない。先にも言ったが、偵察メンバーになれば試合が始まる前に、自らがそのゲームに出場できなくなると決まってしまう。最初に彼が言ったように、気持ちが落ちても当然だと思う。岡は続けてこうも言ってくれた。
『自分の代わりの子には、一人犠牲になっているので打ってほしいですよ』
 犠牲、と確かに彼は言った。こちらから聞いておいておかしな話だが、ここまで正直な言葉で答えてくれるとは思っていなかった。もっと聞きたい事はあったし、聞きたい事も出てきた。ロッカールームから選手が出てくるのを、まだかまだかと待っているたくさんのファンの人たちのそばで、しかも優勝とは直接関係のないことを聞くのはやはりためらいがあった。
 このとき岡に話を聞き始めてすぐ、東洋大の部員の方に「歩きながらでも良いですか?」と言われてしまった。あのような状況では当然だった。それでも岡は、二、三歩進んで少し広い所に出ると、自分から立ち止まってくれた。そんな彼だからきっと、もう少し質問を投げかければ快く答えてくれたに違いない。でも、だからこそこんなに聞いては申し訳ない、という気持ちにもなった。

100614oka_02今季リーグ戦で東洋大が優勝した歓喜の瞬間。岡のようなバックアップに回る選手にとっては、一番の喜びとなる

 グラウンドでプレーするだけが選手ではないし、野球でもない。もちろんベンチだけでなく、スタンドも一体となって勝利に向かっている。岡のように陰でチームを支えている力だって不可欠なのだと、改めて思い知った。
 話の最後に、彼は満面の笑みを見せてこう締めくくってくれた。
『今度は仕事できるように頑張ります!』
 
 それから1週間後に閉会式が行われた。その後には恒例の各部優勝校の写真撮影。まず最初は3列に整列して、まじめに撮る。岡はその3列目で控えめに写っている。そしてそれが終われば今度はくだけた感じで撮影だ。もう列など関係ない。前に出てきて座る者、真ん中に移動する者…それぞれが思い思いの姿、場所で笑顔になる。岡の姿を探してみると…やはり3列目から顔を出して微笑んでいた。

     

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は7月初旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライターとして活躍し、この春大学を卒業。一昨年は亜細亜大・岩本貴裕(広島)を徹底マークし、岩本と強打コンビを組んでいた中田亮二(中日)も昨年くまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2010-05-12

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第16回)

100512inoue03東都開幕! 球春到来です

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポートです。

 今回、山田さんがスポットを当てたのは、日本大の外野手・井上彰吾選手です。

 それではスタートです!

       

井上彰吾(日本大)

先輩・赤嶺慎の面影漂う好選手

 日本大の外野手、井上彰吾(筑陽学園)。スラっとした体型で、足も速い。高校、大学の先輩でもある長野久義(巨人)のように、走・攻・守と三拍子揃っている。そのうえまだ2年生とは思えない風格が漂う。堂々とバッターボックスで構える姿は昨年主将を務めた赤嶺慎(現・NTT西日本)に似ている。細かいことを言えば赤嶺よりも井上の方が細身だが、かつて赤嶺も背負っていた「背番号23」がそのことをより強く思わせるのだろうか。

100512inoue011年春からリーグ戦に出場する井上は、着実に成績を重ねていった

 まだ1年生だった昨年、井上はすでに日本大のレギュラーに名を連ねていた。打順1番が彼の定位置。開幕戦でいきなり3安打1打点の活躍を見せた。
 その後は無安打に抑え込まれる試合もあったが、極端なスランプに陥ることもなく全試合フルイニング出場。そして春季リーグで積み重ねたヒットは13本、打率.277。初めてのシーズンでレギュラーを掴み、その上先のような成績を残せたことは十分素晴らしいと言える。将来は日本大を引っ張っていく存在にきっとなってくれるだろう――そう期待すると同時に、今後どのような活躍を見せてくれるのだろうかと楽しみになった。
 そして、きっと多くの日本大ファンが望んだであろうその期待は裏切られることなく、井上の2度目のシーズンが進んでいった。
 当初は定位置1番での出場が続いたが、中盤からは3番に抜擢された。最後のカードを残して、井上が放ったヒットは18本と好調を極めた。
 一方、チームの方は優勝争いの真っ只中、勝ち点を落とせばその可能性が消滅するという展開にあって、日本大は国士舘大との初戦に敗れてしまった。それも1-8と完敗。井上もノーヒットに終わった。長いシーズンなのだから、無安打で試合を終えることもある。また明日は違う結果になるかもしれない、とそんな風に考えていた。
 しかし、翌日目にしたのは、まったく予想もしていないものだった。スコアボードに井上の名前がない。1番にも、3番にも違う選手の名前がそこにあった。この試合は日本大が勝利したため、次の日は優勝決定戦となった。
 その3戦目…。またも彼の名前がスコアボードに表されることも、コールされることもなかった。試合は1-0で国士舘大がサヨナラ勝ちを収めた。
 後で分かったことだが、井上はインフルエンザにかかっていたため欠場をやむなくされたそうだ。1点を争うゲームだっただけに、井上が出場していたら違った結果になったのでは? と思わずにはいられない。もちろん、それは誰よりも本人が思っているはずだ。
 まだ彼にはあと6季も残っているのだから、この悔しさを存分にぶつけてほしい。劇的な幕切れの余韻からまだ冷めないうちから、私はそう思っていた。
 それから1週間後の閉会式で、井上は表彰された。打率.400で2部リーグの首位打者に輝いたのだ。

100512inoue022部リーグ首位打者として表彰される井上

 そして今春――。
 ある試合はトップバッターとして、ある試合は3番打者として、必ず彼の姿はグラウンドにあった。
 しかし、リーグ線で日本大は苦戦を強いられる。開幕カードの専修大戦は、先勝したが3戦目までもつれた末に落とした。
 続く東京農業大戦は1勝1敗で、またしても3戦目を迎えた。1点を追う8回、打席には井上が入った。カウント2-0として投じられたボールは、井上の左足を直撃した。かかとか足首のあたりだった。
 死球を受けた直後は地面に手を着いて、それでも歩みを進めようとした。しかし、すぐにまた地面に手を着いて動きが止まる。普段は表情をあまり変えることのない井上だが、この時ばかりはあまりの痛さに顔が歪んでいた。とうとう立ち上がることができなくなると、臨時代走が告げられた。そしてそのまま、ベンチへと退いた。
 井上の足は無事なのか、今後に影響することはないのか。試合中にも関わらず、そんなことばかりが頭を巡る。結局この日は2-1で東京農業大が勝利し、勝ち点を挙げた。
 試合後に球場の出入口で選手が出てくるのを待っていると、井上が歩いて出てきた。足には幾重にも包帯が巻かれてはいたが、一人で歩く姿を見て大事には至らなかったのだとほっとした。実際にその2日後の試合にもフル出場していた。
 昨秋のように、戦線を離れることがなくて良かった。井上に限らずどの選手でも、ケガなどで試合に出られなくなるなどという話はなるべく聞きたくないから、本当に安心した。

100512inoue05_2現在、2部に低迷中の日本大。1部復帰を目指して、今後井上にはチームを引っ張る役割も期待される

 最初にも言ったが彼の打席での姿、雰囲気に赤嶺が重なる。ただ、赤嶺はなかなか自らの成績とチームの成績が比例しなかった。だから井上には、彼の一打がチームを勝利に導くものになってほしいと願ってやまない。
 昨年に味わった悔しさや1年通して得た経験は、非常に大きなものだろう。まだ2年生ではなく、もう2年生。相手からはきっとこれまで以上にマークされるが、その中でも結果を残してほしい。

       

     

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1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライター。昨年は岩本貴裕(広島)を徹底マークしたため、強打コンビを組んだ中田もくまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2010-04-13

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第15回)

100413sawada00東都開幕! 球春到来です

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポートです。

 今回、山田さんがスポットを当てたのは、國學院大のセカンド・吉澤田昇吾選手。職人気質あふれる堅実な守備に対するこだわりとは何か…?

 それではスタートです!

       

澤田昇吾(國學院大)

堅実な守備を誇る職人気質の内野手

100413sawada01顔色ひとつ変えることなく打球を処理する。堅実な守備が澤田の武器だ

 國學院大のセカンド澤田昇吾(金沢)は、俊足と堅実な守りが武器の選手だ。堅い守備がチームカラーである同大において、その存在は非常に大きい。
 リーグ戦ではセカンド、サード、ショートを守ったことがある。現在は三塁手が谷内亮太(金沢西)、遊撃手が渡邉貴美男(文星芸大付)と、どちらも安定した守備が光る2人がそれぞれを務めているため、澤田は二塁手としての出場がほとんどだ。
 彼はいわばユーティリティープレーヤーだ。守備機会があればいずれのポジションもそつなくこなす。だが、本人は1つのポジションを守り抜くことを大切に思っている。それがどのポジションだとしても――本人には思うところがあるようだが――、1つのポジションを誰にも渡さずにシーズンを終えることに価値を置いている。複数のポジションを任されるということは、それだけ信頼されているというようにも捉えられるが、澤田にとって守備とはそれだけこだわりの強いもののようだ。

 澤田のプレーは、決して派手ではない。守備機会があれば、ひたすら堅実に処理をする。二遊間を組むショートの渡邉は、以前、このブログでも取り上げたが、誰よりも元気で、その声は球場外にも響き渡るほどだ。國學院大は、他にもそういう選手が非常に多い。一方の澤田は…?
 打席でも、守備位置でも、気合を入れるような大声を出してはいない。表情もあまり変えず、喜怒哀楽を出すことはほとんどない。正確にいえば“喜怒楽”なのだが。大学野球全体で見れば彼のようなタイプは決して珍しくないだろう。しかし國學院大にいるから、静かな澤田がかえって目立つ。

「意識してはいないんですが、自分はあまのじゃくなんで(笑)。みんなが元気出してる時は出したくないなーって」

100413sawada03澤田(右)と二遊間を組むショートの渡邉貴美男(左)は東都一の元気を誇る。一時期はショート・澤田、セカン・渡邉というときもあった。いずれにせよ、好対照のキーストーンコンビだ

と笑って言う。
 そういえば澤田が笑っているのを見るのは数えるほどしかない。少なくともグラウンド上では見たことがないと思う。笑顔も見せなければ、大声を出すこともそうそうあることではない。普段の口ぶりも柔らかく、落ち着いた印象だ。
 しかし当然ながら、外野に声をかけたり下級生内野手に指示を出したり、投手にもマウンドに近寄ってはひと言二言話しかける。試合経験豊富な澤田だからこそ、自らの役割をしっかり理解している。

 そしてもちろん、プレーでも魅せてくれる。
 難しいバウンドにもリズムを合わせて捕球、スローイングも正確だ。ボテボテの当たりにも前進して打球を手に収めると、身体は勢いそのままに前へと流れながらも送球はファーストのグラブへときれいに吸い込まれる。
 そのようなプレーは感覚的に「キャー」とか黄色い声援を浴びるものではなく、少し偉そうだが「おぉー」と冷静に感心してしまうものばかりだ。澤田のところに飛べば安心して見ていられる。

         

 開幕カードの国士舘大3回戦でのことだ。
 島津翔(聖光学院)の放った打球が一二塁間へ転がった。一塁手の庄司輔(修徳)が倒れ込みながらグラブを差し出したがそれを弾いた。しかし澤田がバックアップして捕球。ベースカバーに入った高木京介(星稜)に送ってアウト! 球場が湧いたプレーだった。
 しかし試合後、本人はこれに対して「普通ですよ。常にああいうことを頭に入れていますから」と教えてくれた。
 この一戦は3対2の接戦の末、國學院大が勝利して勝ち点を挙げた。先のシーンも勝負を分ける非常に大事な場面だったと思うが、澤田の口から出たのは別の場面についての反省だった。
 1点差に迫られた5回裏のこと。国士舘大が叩き出した2点目のタイムリーヒットは、同時にヒットエンドランがかかっていた。一塁ランナーは三塁まで到達し、一死一、三塁とピンチが広がった。

「エンドランは頭になかったので、細かいところが詰められなくて悔しい。1年生の時から試合に出させてもらっているのにそれを生かせなかった」

100413sawada09番を打つことが多い打撃は課題も多い。俊足を生かして、下位打線が作ったチャンスを広げていきたい

 結局、国士舘の反撃はこの2点で終わったが、澤田にとってその結果は関係ない。自信のある守備で、そこまで考えが及ばなかったことを悔いている。それだけ澤田が自身に課している守りへのレベルの高さがうかがえる。
 
 開幕カードで勝ち点を挙げる好スタートを切った國學院大学。しかし、澤田が3試合で放ったのは内野安打3本。自慢の足で稼いだものだが、チャンスで凡退するなどバッティングは彼の中では納得がいくものではない。チームの波に乗って、打撃も上向きになってほしいと願わずにはいられない。
 それでも、こと守りに話が移ると「サードもショートも守ることがあったら、谷内にもキミオにも負けるつもりはないですけどね」と、強気に言ってくれた言葉がとても頼もしく感じる。

 普段は冷静な澤田が、チーム全員と歓喜に沸く姿を神宮のグラウンドで見てみたい。

     

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライター。昨年は岩本貴裕(広島)を徹底マークしたため、強打コンビを組んだ中田もくまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2010-03-24

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第14回)

100324yoshihara012010年開幕間近の東都です!

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポートです。

 今回、山田さんがスポットを当てたのは、東京農業大のエース・吉原正平選手。昨年、主戦としてチームを支えてきた最後の一戦での体験とはいったい…?

 それではスタートです!

       

吉原正平(東京農業大)

喜怒哀楽全開! 身長174センチのエース

100324yoshihara0209年の東都2部リーグでエースとして東農大を支えた吉原

 東京農業大のエース・吉原正平(東筑紫学園)は4月に3年生になる。1年生春には救援のマウンドを幾度となく踏み、2勝も挙げた。しかし、その当時の投手陣は上級生が主体となっていたこともあり、吉原ひとりに注目することはなかった。
 ではなぜ、いつから特に気になるようになったかというと、それも定かではない。2部とはいえ、他大学にはただ見ているだけでも目を引く選手が大勢いる。その中でなぜ? と言われると、やはり前回の畠山翔平(國學院大)のときにも話題にした、体格とか表情とかいうものが要因だと思う。

 吉原の身長は174センチと、小柄な部類に入るだろう。しかしマウンド上ではそれを感じさせないのだ。神宮第二球場のネット裏の最前列に座れば、カメラの望遠レンズを使わずともピッチャーの表情はよく見える。投げる間際にその目は険しくなり、身体いっぱいにボールを投げ込む。気持ちのこもった重いボールだ。時には身体を180度回転させるほどのガッツポーズ。仲間が迎えるベンチへ駆けよる時は笑顔に変わっている。
 試合中にマウンドで喜怒哀楽を出すことには賛否あるのかもしれない。私はどちらも良いと考えるから、吉原が気迫を前面に出す姿を見ることも楽しみにしている。

 しかしよくよく考えると、吉原が“エース”としての活躍を見せたのは昨年の秋からだった。春まで第1戦の先発を任されていた最上級生左腕に代わって、その役を任されるようになったのだ。
 開幕戦の先発のマウンドは6回途中で10安打を浴び、3失点で降板。翌2戦目はサウスポーの伊部翔太(村上桜ヶ丘)が完投して勝利。3戦目には当然のように吉原が先発のマウンドを任された。
 この日は3対2と僅差で東農大が勝利し、勝ち点を奪った。吉原は9安打浴びながらも、失点は2ランによる2点のみに抑える粘り強いピッチングだった。
 第4週目の日本大戦では初戦、3戦目ともに敗戦投手となって勝ち点を落としたが、チームは優勝争いを繰り広げていた。

           

100324battery優勝の望みがまだある中で迎えた拓殖大戦に挑む吉原-田中のバッテリー

優勝をかけた大一番での悪夢

 8週に渡って行われるリーグ戦も、この時点で残すところあと2週。優勝の可能性は国士舘大と日本大、そして東農大に絞られた。
 東農大の優勝するには、日本大が国士舘大戦に2勝1敗を収め、東農大が拓殖大に2連勝することが必須だった。それでようやく同率首位となり、プレーオフに持ち越しとなる。他チーム頼りとはいえ、東農大としてはとにかく連勝だけはしておきたい。ただ、相手の拓殖大も最下位の可能性が残されていただけに、両チームにとってこの1戦1戦が非常に大切なものになることは必至だった。
 そんな中で登板となった吉原のピッチングは、実に素晴らしかった。8回を終えて散発2安打ピッチング。打線は2回に1点を先制すると、その後なかなかチャンスらしいチャンスを作れなかったが、9回にダメ押しとなる1点を挙げた。
 あと1イニング、拓殖大の攻撃を残して、私の頭は吉原が3つのアウトを奪うことしか考えていなかった。

 拓殖大の内田俊雄監督は、9番から始まる打順で次々と代打を送ってくる。1人目のバッターがヒットで出塁。続く打者は二塁打でランナー二、三塁。
 これまで順調にアウトを積み重ねてきたにも関わらず、1つのアウトも奪えない急展開に、球場の雰囲気が少し変わってきたのを覚えている。
 そして、この回3人目の代打が四球を選んで何と無死満塁となった。迎えるバッターは、前の打席で二塁打を放っている中本恭平(明徳義塾)である。何というところで拓殖大絶好のバッターを相手にすることになってしまったのだろう。
 そう思った直後のことだった。
 中本が初球を振り抜いた打球は、打った瞬間それと分かる特大のホームランだった。

 拓殖大のベンチからは選手が一斉にホームへとやってきた。歓喜の逆転満塁サヨナラ弾。そして、吉原の方へ視線を移すと…膝をついて崩れていた。外野方向へと向いて膝をついたまま微動だにしない。ようやく仲間たちに腕を掴まれて身体を起こされると、その顔が見えた。目に涙はなく、ただ茫然としている。まるで今目の前で起きていることを信じられないかのように、ただただ視線を落としていた。
 野球は筋書きのないドラマとは言うものの、この一戦はすべて最初からストーリーが綴られていたのではないかというほどの試合だった。それはもちろん、吉原が悲劇のヒーローとあるストーリーである。
 ホームベース付近に整列し、挨拶を終えるとスタンド前で再び整列。グラウンドへ声援を送ってくれた部員や応援団たちに頭を下げる。一振りの逆転サヨナラ負けに、そのまま顔を上げられずに動かなくなる選手もいた。その内の1人が、吉原だった。初めて見る吉原の沈んだ姿は、小さく、小さく見えた。

       

1部昇格へのラストチャンス

100324sayonara01逆転サヨナラ弾を食らった直後。吉原は座り込んだまま呆然としてしまい、しばらくの間、立ち上がれなかった

 結局、東農大は翌日から2連勝して最終的に勝ち点4でシーズン終了。国士舘大とは勝ち点で並んだものの、勝率の差で国士舘大が優勝。東農大は2位に終わった。
 吉原にとっては、シーズンを通してエースとして投げ続けたこと、そして、この逆転弾を味わった悔しさは必ず今後に活きてくるだろう。
 とりあえずは、あとわずかに迫った平成22年東都大学野球春季リーグで、どのようなピッチングを見せてくれるかに期待がかかる。
 そしてネット裏最前列から眺められる彼の表情、姿も楽しみだ。
 今季は吉原本人がエースとして1部でプレーする権利を得られるラストチャンス。そのためには、まずリーグを制覇しなければならない。そして、すべてをかけて行われる1部最下位校との入替戦次第では…。
 果たして、この理想を実現することができるだろうか?
 秋になって、広い神宮球場の真ん中に立っている吉原をぜひ見てみたい。

     

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は4月初旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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2010-02-22

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第13回)

2010年、今年も東都です!

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポートです。

 今回、山田さんがスポットを当てたのは、國學院大の左腕・畠山翔平選手。下級生の頃から中心的存在として活躍する選手が多かった中、畠山投手が苦労しながらも這い上がってくる姿について、山田さんの視点で振り返っています。

 それではスタートです!

       

畠山翔平選手(國學院大)

Hatakeyama021年での開幕戦でいきなり大学初登板を果たした畠山だったが、その後は2部落ちするまで登板機会に恵まれなかった

大一番のマウンドで力を発揮できなかった下級生時代

 身長173センチとは公称されているものの、國學院大畠山翔平(能代)はその数字よりも小柄に映る。笑えばその目は一本の線となり、非常に柔和な印象を受けた。投手層の厚い國學院大だが、エースの高木京介(星稜)も、昨秋リーグ最多勝の埜口卓哉(つくば秀英)も、ともに180センチを超えてがっちりとした体格。それだけに畠山の存在がかえって色濃く見えた。

 以前、このログでも取り上げた同級生の村松伸哉は、入学間もなくして迎えた開幕戦で鮮烈なデビューを飾った。実はこの試合で村松の後を継いで、2番手としてマウンドに上がったのが畠山だった。
 7回途中1失点で降板した村松に対して、畠山は1回2失点。打者6人に対して1安打2四球だった。もちろん、3番手投手の好投もあってのことだが、自軍のリードを相手に渡すこともなく、大学初マウンドにしてはまずまずのピッチングと言えるのではないか。
 だがこのシーズン、畠山の登板はこの1度だけ。この間に村松のみならず、埜口、奥村和久(旭川大高)と同学年のピッチャー陣は経験を積んでいった。

 翌シーズンに最下位となり、日本大との入れ替え戦に敗れた國學院大は2部に沈む。その間、畠山はリーグ戦でも登板はごくわずかであり、入れ替え戦でも彼がマウンドに上がることはなかった。
 しかし、舞台が神宮第二球場に移ると、連日のようにリリーフを任されるようにっていく。そして、東京農大戦では2部ながら待望の大学初勝利。國學院大ピッチャー陣の一角を、堂々担う存在になったのだ。
 ところが、チームの方はというと、なかなか勝利を手にすることができない。
 ついこの間まで1部にいたというのに、勝ち点を挙げたのは最終週のことだった。後に選手たちは「2部を甘く見ていた」と振り返ってはいるが、東都はそれほど恐ろしいリーグなのだと改めて思い知らされた。同率最下位の専修大とのプレーオフは専修大に軍配があがり、國學院大はなんと2季連続で最下位としての入替戦。2連勝で2部残留を決めた次のシーズンでは一気に優勝を果たし、今度は1部復帰に向けた入替戦へ。何とこれで3季連続入替戦となった。

Hatakeyama012部で優勝して臨んだ日本大との入替戦。畠山は3点リードした8回に登板したものの、ストライクが入らず。早々にマウンドを降りる

 前回、屈辱を味わった日本大へのリターンマッチとなった入替戦。大切な初戦は序盤から國學院大が主導権を握る。
 初回に2点を奪うと、その後も加点して国學院大優位に試合を進めた。
 そして、8回。4対1という場面で畠山がマウンドへと向かう。もう終盤ではあるが、3点差ではまだまだ行方は分からない。特にリーグ戦と入れ替え戦とでは雰囲気がまるで違う。見ているだけの私ですらそう思うのだから、プレーしている方はさらにそう感じているのではないか。しかしその雰囲気をプラスに受け止めるのか、マイナスに捉えてしまうのとでは、そのプレーはまったく異なって形となって現れる。
 おそらく畠山は、後者だったのだろう。
 1番から始まる、相手にとっては好打順にストライクが入らない。先頭バッターに四球を与えると、続く打者にもフォアボール。わずか10球で同点のランナーを出してしまった。
 ここで竹田利秋監督はベンチから歩みを進め、投手交代を告げた。マウンドへ向かったのは、埜口だった。
 願ってもないチャンスをもらった日本大側は、当然盛り上がりを見せる。だがその勢いを埜口のピッチングが止めた。クリーンアップにも臆することなく投げ込み、3人でこの回を締め、畠山の蒔いたピンチの種をしっかりと摘んでくれた。
 國學院大はそのまま逃げ切って勝利し、1部復帰へ王手をかけた。
 そして、翌日は延長戦の末、國學院大が勝利を収めて2連勝。畠山が投げることはなかったが、チームは1部の舞台に復帰を果たすことができた。

        

力のある同期が中心となる中、畠山は?

 3年生になり、再び一部へ戻ってきた國學院大は、彼の学年が投手陣の中心になった。
 だが、登板するのは、村松、埜口、そして畠山と同じく左腕の奥村。肝心の畠山はというと、なかなか登板の機会に恵まれない。投手陣は1部でも遜色なく戦っていたが、打撃陣が打てずに僅差で敗れていく試合が多かった。
 そして、國學院大は最下位の可能性を残したまま最終カードに突入。4季連続の入替戦だなんて、そんなことがあるのだろうかと、まだ決まってもいないのにそんな気持ちがよぎりながら観戦し続けていたが、それはいい意味で裏切られた。村松の3季ぶりの白星とともに、國學院大は残り1試合を残して最下位回避が決定したのだった。

Hatakeyama04昨春の東都リーグ戦。最下位回避を決めた翌日。畠山は大学初先発の機会を得たが…

 翌日の1戦は勝っても負けても、順位に変動がなくなった。いわゆる消化試合。そんな試合のせいか、両チームとも来季以降の先を見据えた起用となった。
 ここで、國學院大の先発には畠山が指名される。このシーズン3度目の登板にして、大学初先発。対する青山学院大もシーズン中は中継ぎ起用されていた新沼悠太投手(一関一)だった。
 誰も踏んでいないまっさらのマウンドに、畠山が立つ。
 彼のピッチングを見るのは久しぶりだったので、スターティングメンバーが発表された時から楽しみにしていた。
 だが――。まったくストライクが入らない。
 どうしたのだろうか、と思った時にはもう竹田監督は審判のもとへと歩いていた。
 打者2人に8球を投じて2四球。つまりストライクは1球もなかった。こうして畠山の春季リーグはあっという間に終わってしまった。

 

ようやく兆しを見せ始めた昨秋のピッチング

 そして昨秋。
 國學院大は開幕カードこそ落としたが、翌週の青山学院大戦では2連勝して勝ち点1。まだまだ優勝の可能性がある中、3週目の亜細亜大戦は大事な初戦を落としてしまった。春に2度対戦し、いずれも完封負けをくらった東浜巨(沖縄尚学)から、今回はようやくホームベースを踏むことはできたもののの、結局は敗れ屈辱の3敗目。
 もう負けは許されない2戦目は、高木とともにエース格である右の埜口が先発マウンドにあがった。
 しかし、この日は制球に苦しみ、本来の姿を発揮できず、0対2と追う展開となる。打撃陣が奮起して7回に一挙4点を奪って逆転に成功したものの、その裏、埜口が先頭打者に6個目の四死球。次打者にも初球ボールを与えたところでベンチが動いた。
 2番手に告げられたのは、畠山だった。
 これまでの投球を見ていた私は、「ここで畠山か?」と申し訳ないが驚いてしまった。

Noguchi01スリークオーターとサイドの中間あたりから、地面を一度かすめるかのように伸び上がってくる速球が魅力の埜口卓哉。今年の活躍いかんではドラフト候補になる可能性が十分ある

 だがこの日は畠山は違っていた。いや、これが真の姿なのかもしれない。
 ボールワンから入った畠山にとっての初球は見事なストライクとなり、それだけで私の中の不安は少し消えた。その後ボール、ボールと続いてカウントが1-3となるなど、完全に不安は拭い去れはしなかったが、しっかりと後続を抑えてベンチへ駆けて帰っていく。仲間の蒔いたピンチの種を、今度はしっかり畠山が摘み取った。

 畠山はその後のピッチングも冴えわたる。最終回こそヒットに自らのエラーが重なってピンチを招くが、得点は許さない。9個のアウトのうち、空振り三振が4つ。縦に大きく割れるカーブで緩急をつけたピッチングが、亜細亜大打線をよせつけなかった。
 結局、國學院大は見事勝利し、対戦成績を五分に戻した。

 國學院大の救援左腕といえば、奥村が前季に素晴らしい投球だったが、その後故障のためにベンチを外れている。それだけに、畠山が出てきてくれたことはチームにとって非常に大きなことだった。
 そして畠山は翌日の先発を任される。一方の亜細亜大はもちろんエース東浜が先発だ。 この日の畠山は好投するも5回に工藤光樹(崇徳)にソロ本塁打を打たれて先取点を許し、相手より先にマウンドを降りてしまった。
 だが、重要なのはチームが勝つこと。今度は埜口が満塁のピンチもしっかり切り抜け、粘投を続ける。バッター達も4度目の対戦となる東浜から、チャンスを作ってはプレッシャーをかけ続け、6回にようやく同点に追いついた。
 試合は中盤から終盤にさしかかり、どちらも譲らない好投を見せて延長戦に突入。國學院大のサヨナラ勝ちという結果で幕が下りた。

Noguchi_and_hatakeyama173センチ(公称?)の畠山と184センチの埜口がこの身長差で肩を組む

 このシーズンは立正大が南昌輝(県和歌山商)らの活躍で初優勝を果たした。國學院大は優勝争いに加わったものの3位。もちろん畠山は亜細亜大戦後も登板することになるが、勝ち星はつかなかった。
 大学ラストイヤーとなる今年、先発をやるのか中継ぎをやるのかは分からない。
 ただ、どちらにしても、畠山が鋭い眼差しでバッターと対峙する姿は必見だ。試合後には、くしゃっと崩れる彼の表情も楽しみにしたい。

      

※この連載は1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は3月初旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
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2010-02-10

「ナニワのゴジラ奮闘記」「現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」更新日変更のお知らせ

 ただいま毎月5日に更新している「ナニワのゴジラ奮闘記」(谷上史朗著)「現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」ですが、諸事情により更新日を2月15日以降に変更いたします

 読者のみなさまより大変ご好評頂いております連載が変更になりまして、ご迷惑をおかけいたしますが、今しばらくお待ちください。

     

(編集部担当および谷上史朗)

2010-01-13

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第12回)

2010年、今年も東都です!

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポートです。

 今回、山田さんがスポットを当てたのは、日本大の浦口侑希選手。この春で3年生となりますが、1年生のときは野手、2年生のときは投手として活躍してきた選手です。そのプレーぶりについて、山田さんの視点で振り返っています。

 それではスタートです!

       

100112uraguchi_top長崎日大高のエースだった浦口だったが、日本大入学直後は野手に転向。2年になって投手に返り咲いた

浦口侑希選手(日本大)

大学入学とともに野手に転向

 日本大のピッチャー浦口侑希(長崎日大)。高校3年時には第89回全国高校野球選手権大会に出場。エースで4番としてチームをベスト4に導いた。
 彼が高校卒業後に進学したのは、東都大学野球リーグに属する日本大。東都はDH制のため、投手が打席に立つことは普通ない。投打ともに魅力のある浦口が新天地で専念したのは…。

 浦口の登録は外野手だった。本人としては投手でいきたかったが、チームの方針で打者転向に至ったそうだ。
 08年秋、当時1部リーグにいた日本大。大学デビューの機会はピンチヒッターだった。相手投手は青山学院大の井上雄介(楽天)。しかし、結果は凡退。そう簡単に1部で戦い抜いてきたピッチャーから1本は打てないのだろう。まだ1年の秋、試合の経験を積むことも大切だ。
 と、そんなことを思ったが、翌週の亜細亜大戦で初ヒットを記録し、そのまた翌週にはスタメン出場を果たす。
 しかし、私は彼のヒットを見ることができなかった。まあ、来季に見られるだろうと、そこまで気にすることはなかった。

       

2年になって再び投手転向

 だが、2年生になると、浦口は投手として登録された。本人がピッチャー転向を直訴した結果だった。
 もちろん、チームを1部に押し上げるために、投手としてだとしても、バッターとしてだとしても活躍してほしい。チームのためにやることは変わらない。ましてや自身が志願してのピッチャーだ。私は浦口のピッチングを見ることを楽しみに変えた。

 投手として初めての試合は、開幕から2カード目の専修大戦。専修大はこのシーズンで2部優勝を果たすことになる。初戦に2回で降板したエース十亀剣(愛工大名電)の後を受けてマウンドへ。4回を被安打2、無失点の好投だった。
 その2戦目のことだった。前日は2番手で登板した浦口が、この日は先発のマウンドに上がった。1戦目を落とした日本大にとって大事な試合だ。

 初回、そして2回も日本大は先制のチャンスを作るが走塁ミスなどで無得点。嫌な流れだなと思ったその直後の3回。専修大は2アウトを簡単に取られるがエラーでランナーを出すと、ヒットでつないでランナー一、三塁と先制の好機を迎える。さらに暴投で1塁走者が進んで二、三塁。
 ここでバッターはファーストゴロ。一塁手がベースカバーに入った浦口に下からトス。しかし送球が逸れた。浦口は足をひねったのか、ランナーと交錯したのか、かなり痛そうにして倒れこんだ。
 このまま投げることなど無理だろう。そう思うほど辛そうだった。
 だが、結局は続投。あとアウト1つで攻守交代。2失点のまま終えてほしいという一心だった。
 しかし、バッターは4番の秋月翼(佐久長聖)。専修大にとってこれ以上ないバッターに回ってきた。痛みをこらえて投じるが、秋月が鋭く振りぬいた打球はレフトへ大きく弧を描く。リードを広げる2ランホームランとなった。

 この回は結局4失点で終えた浦口。ベンチに戻ってくる足取りもおかしい。まともに足を着いて歩けていなかったのだ。もうとても投げられないだろう。きっと、その場にいた誰もがそう思えるほどだった。
 だが次のイニングで、日本大ベンチが投手の交代を告げることはなかった。
 マウンドへ向かう歩みも、痛みを隠せていない。足を着くことができず、やっと一歩一歩を刻んでいるようだった。そんな浦口を見ている方も辛い。もう投げなくて良い、そんなことさえ思った。
 本人は「投げられません」などと言えなかったのか。痛くても辛くても、自らマウンドを降りる選択など、できなかったのか。そもそも、そんな選択肢など浦口にはないのかもしれない。この一戦が大切なことは分かるが、悪化してしまうことがあってはいけない。無理矢理にでも浦口を交代させてほしかった。

100112uraguchi2009年秋の東都大学野球2部リーグ戦では、投手としても野手としても出場ゼロだった浦口。今シーズンはぜひ元気な姿を見たい

 その後、浦口は痛みをこらえながらよく投げた。結局失点したのは3回だけ。あとは手負いの左腕となった浦口の力投が、バッター陣の奮起を引き出す材料になってくれれば――、と思わずにはいられなかった。
 しかし、2点を返した直後に十亀が2失点、次の回にさらに1失点。投打がちぐはぐなまま試合を終えた。

         

3年となる今年への期待

 このシーズンの日本大は勝ち点2の5位だった。浦口はというと、専修大戦の翌週に登板。打者3人に四球、タイムリー2本と結果はついてこなかったが、足のケガが大事に至らなかったのだとほっとしたのを覚えている。
 そして、国士舘大との2回戦に先発すると、6回1失点で初勝利を挙げた。先発に中継ぎにフル稼働した十亀も印象強く残ったが、浦口は良くも悪くも十分インパクトが強かった。
 しかし、昨秋のリーグ戦で浦口は1度も投げることはなかった。私が最後に浦口のピッチングを見たのは、昨年8月に行われた交流戦。場所は神宮球場だったのだが、ぜひリーグ戦でまた同じように元気な姿を見たい。
 4月からは、もう3年生になる。先輩に引っ張っていってもらう立場から、引っ張る側へと変わる。
 あの試合で見せた根性と気迫に、私は期待したい。

      

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2009-12-04

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第11回)

オフの時季も東都は不滅です!

現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポートです。

 今回山田さんがスポットを当てたのは、國學院大の主将として最後のシーズンを有終の美で飾った神谷博孝選手。地味ながらも地道に頑張った4年間のプレーぶりを山田さんの視点で振り返っています。

 それではスタートです!

       

神谷洋隆選手(國學院大)

出てきそうで出てこられなかった下級生時代

091204kamiya011年春のリーグ戦で早くもデビューを果たし、國學院大の中心選手として前途が期待された神谷選手だったが、その後は思ったように結果が残せず苦労する

 平成21年度の國學院大野球部主将を務めた神谷洋隆(明徳義塾高)。高校時代は2度の甲子園出場経験がある。しかし、高校生活最後となる3年生の夏は、高知県大会を制しながら、大会前に起きた不祥事の報告を怠ったとしてチームは出場を辞退。開会式を2日後に控えながら一転直下の悪夢を経験した。
 その後、彼は当時東都2部リーグに属していた國學院大へ進学。1年春には公式戦でデビューする。だが、そこから定位置をつかみ、レギュラーとして結果を残すシーズンは早々はやってこなかった。
 このシーズン、2部で優勝した國學院大は、入替戦でも立正大を下し1部昇格を果たす。神谷は秋のリーグ戦中盤頃からは、指名打者としてスタメンに名を連ねるようになったが、レベルの高い東都の投手陣を前に、なかなか思うような成績が残せなかった。

 2年生になると、神谷の出場機会はさらに少なくなってしまった。少ないチャンスをものにできず苦しかったこの時期は、チームの成績もまた苦しく、秋季リーグは1部最下位。今度は残留をかける立場で入替戦に臨んだ。
 初戦。2部優勝の日本大を相手に、國學院大は初戦を落とした。日本大のエース・篠田純平(広島)の前にわずか1安打完封負け。神谷は代打で出場したが凡退した。
 そして、翌2戦目。ここで國學院大・竹田利秋監督は、なんと神谷を4番に起用する。リーグ戦で代打でしか起用されなかった神谷が、なぜこのタイミングでスタメン? 正直、そう思ってしまったのは事実だ。しかも、この年の主軸である聖澤諒(楽天)を押しのけての4番である。
 しかし、神谷はこの試合5打数3安打1打点の固め打ちと期待に応える活躍を見せた。國學院大は試合に敗れ、2部降格とはなったものの、初戦ほどの力の差は感じられなかった。神谷もこれを来季につなげてくれることを祈った。

 2年ぶりの神宮第二球場となった翌年からの2部リーグ。だが、神谷は入替戦での活躍をきっかけとすることはできず、以前と同様、代打中心の起用が続いていた。リーグ戦中盤に一時期スタメンに名を連ね、1試合だけ4番にも入ったが、決して好調といえる状態ではなかった。
 もっとも、それは國學院大がそうだったのだが…。2部降格後すぐのシーズン、チームはまさかの最下位。3部リーグ優勝の大正大との入替戦は2連勝で残留を決めたが、神谷は2試合とも出場がなかった。
 ただ、この『最下位』という屈辱の結果は、チームとしては選手たちの気持ちと結束力を強めた。次の秋季リーグ戦は、当時の4年生エース・高橋広志(鷺宮製作所)らの活躍もあり、最下位から一気に2部優勝を決める。
 1部復帰をかけた入替戦の相手は、國學院大と入れ替わりで1部に昇格していた日本大。今度は立場を逆転しての対戦である。
 初戦は自慢の機動力を生かして國學院大が勝利。2戦目は1点を争う接戦となったが、延長11回表に渡邉貴美男(文星芸大付高)がタイムリー三塁打を放つなど一挙3点を奪って勝ち越すと、その裏をエース高橋が締め、2季ぶりの1部復帰を劇的な勝利で決めた。

       

最終学年を迎えた今年

 そして今年――。
 最上級生になった神谷は主将となっていた。チームをまとめる大切な役目である。もちろん、選手としての活躍も待ち望んでいた。
 ところが、神谷は開幕カードこそスタメン出場したものの、以降は途中出場になり、ついにはその機会すら少ないものになってしまった。そして、チームも最終カードまで最下位の可能性が残る不本意な成績となり、結局5位でシーズンを終える。

091204kamiya02神谷がリーグ戦で常時スタメン出場するようになったのは、2部落ちなど様々な経験を得たあと。大学最後の4年秋のシーズンだった

 そこからひと夏越え、4年生にとって泣いても笑っても最後となる秋季リーグ戦。1年前、4年生の大きな力が導いてくれた1部リーグで、新しい4年生の意地を見せてもらいたかった。
 開幕戦はいきなりリーグ6連覇を狙う王者・東洋大との対戦となった。
 ここで、神谷は1番ライトでスタメン起用される。試合は息をのむ投手戦を展開。延長12回にエラーで奪われた2点が決勝点となって敗れたが、春に不振を極めた打撃陣の調子は、今は悪くないように思えた。翌2戦目も敗戦し、早々に勝ち点を落としはしたが、それ以降、國學院大は優勝争いに食い込んでいくことになる。

 2カード目。國學院大は青山学院大から待望の勝ち点1。続く亜細亜大戦は、春に2戦連続完封負けを喫した東浜巨(沖縄尚学)が立ちはだかった。初戦に先発してきたこの怪物1年生に対し、國學院大は待望の初得点を奪い、終盤マウンドから引きずり下ろしはしたが、結局試合は敗退。1勝1敗で迎えた3戦目に再び対戦することとなった。
 試合は1-1のまま試合は動かず延長10回裏に突入。この回の先頭として打席に入った神谷は、速球だけでなくスライダー、スプリット、スローカーブなども交えて1年生らしからぬ多彩な投球をしてくる東浜のボールをとらえ、二塁打を放つ。思わずベース上で右のこぶしに強い力が入った。
 そして、1死一、三塁とサヨナラのチャンスを作り東浜を再び降板に追い込むと、代わった倉又啓介から4番の山崎俊(世田谷学園)がサード強襲のサヨナラヒットを放ち、緊迫した3連戦を最高の形で締める結果となった。
 4年生の、キャプテンの一打が試合を決めるきっかけを作ったのだ。

        

最終の最後でも見せくれた意地の一打

 その後、リーグ戦は立正大の初優勝に向かって風が吹き、國學院大優勝の可能性は途中で消えてしまったが、今季の國學院大は健闘した。高木京介(星稜高)、埜口卓哉(つくば秀英高)、畠山翔平(能代高)といった投手力を中心に守備力主体で臨むチームスタイルは、必然的に1点を争う接戦ばかりとなったが、それはむしろ國學院大のペースでもあった。台風による雨天中止によって未消化となり、最終節のさらに後ろに回った中央大との2回戦も、少失点による接戦となる。

 20日前に行われたカード初戦は、11月に行われたプロU-26対大学日本代表戦でも好投することになる東都屈指の速球右腕・澤村拓一(佐野日大高)に苦しみながらも、本塁打で挙げた1点を守りきって辛勝。この日の中央大の先発マウンドには、再び澤村が上がった。
 得点は互いにスクイズで奪った1点のみ。1対1のまま9回表を迎える。國學院大は2死二塁と勝ち越しのチャンスで神谷に打順が回ってきた。
 勝ち越し点となるタイムリーを神谷に打って欲しいと思う反面、試合が決まればこれが神谷の大学最後の打席になる…。そんな複雑な思いが頭をよぎった。
 果たして結果は…!? 神谷が振りぬいた打球はレフト前へ飛んだ。
 レフトが捕球し、バックホーム!
 タイミング的にはアウトか…と思われたが、キャッチャーがこぼして生還。國學院大が勝ち越し点を挙げた瞬間だった。

091204kamiya03殊勲打を放ち、二塁上で拳を握る神谷選手。4年生の意地は、翌年以降、その姿を目に焼き付けた下級生たちに引き継がれる

 二塁ベース上の神谷を見ると、笑みがこぼれている。秋のシーズンになると常によぎることだが、4年生である神谷のプレーはもう見ることができない。いや、神谷に限らず、今年見てきた4年生選手は、今のユニホームを着て神宮でプレーすることはないと思うと淋しくもあった。
 しかし、最後の最後で満足そうな笑みを浮かべた神谷の姿をグラウンド上で見ることができたことについては、こちらも満足感でいっぱいだった。
 今春を1本のヒットも打つことなく終えた神谷洋隆は、ラストシーズンで10本のヒットを積み重ねた。その中には、この日のように、ここぞの場面でチームを勝利に導いた一打も含まれている。

 こうした4年生の意地と牽引力は、来年の後輩に引き継がれていくだろう。高校生よりも同じ空気を吸っている年月が長い分だけ、それは「伝統」という姿無き「形」として残される。だからこそ大学野球は面白いのだ。
 来年の國學院大にも、神谷の面影ただよう地道な選手の出現を期待して止まない。

      

※この連載は以後1カ月に1度のペースの更新に変更いたします。次回は年明け後の1月初旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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http://www.tohto-bbl.com/

       

■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライター。昨年は岩本貴裕(広島)を徹底マークしたため、強打コンビを組んだ中田もくまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2009-11-16

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第10回)

戦国東都は過酷!

現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポートです。

 現在は明治神宮大会に突入している状況ですが、今回山田さんがマイペースにスポットを当てたのは、今季、30季ぶりに2部優勝を飾った国士舘大の左腕エース・岩澤正登投手。今回の1部昇格は彼抜きにはありえませんでした。

 それではスタートです!

       

岩澤正登投手(国士舘大)

30季ぶり1部昇格の原動力となった左腕エース

091116iwasawa02今年春、秋とも安定した成績を挙げた岩澤。体の線は細いが、マウンドでは頼りになる大黒柱となった

  今秋のリーグ戦で2部優勝を決め、入替戦で2連勝して1部昇格を果たした国士舘大。春は最下位に沈んだチームが、一気に30季ぶりの1部を掴んだ。
 その国士舘大のエース、岩澤正登は、187センチと長身だが、体重は63キロ。いわゆる細身のサウスポーだ。もちろん部員全員で成し得た1部昇格だが、岩澤の活躍はその大きな原動力となった。
 
 この秋の国士舘大は開幕カードこそ勝ち点を落としたが、その後は優勝争いに加わっていった。そして、勝ち点を挙げたチームが優勝となる日本大との対戦。左腕エースは初戦の先発を任された。この日は8-1で国士舘が勝利。岩澤は5安打1失点無四球の好投で、リーグ優勝に王手をかけた。
 2戦目は日本大が勝利して1勝1敗のタイ。もう後がない3戦目は、岩澤と十亀剣(愛工大名電)の両エースが先発のマウンドに上がった。

 初回は互いにランナーを出すが、得点には至らず。序盤は国士舘大の勢いが上回るが、なかなかホームを踏めない。一方、2回、3回と日本大打線を3人で終えた岩澤だが、4回から6回はランナーを背負ってのピッチングが続いた。
 表情険しく、気迫を前面に出して投げ込む十亀とは対照的に、岩澤は淡々と投げ、表情をあまり変えることはなかった。ピンチを脱してベンチへ戻る時も、顔つきは崩れない。走者を出しながら無表情に投げる岩澤と、気迫を表に出しながら三者凡退を続ける十亀――。この好対照な2人のエースの投げ合いは、9回を終えてもなお0-0。どちらも譲らない、息をのむ投手戦となった。

 そして延長10回裏、国士舘大の攻撃。
 1死後、死球と四球でチャンスを広げると、3番・宮川翔太(千葉経大付)が放った打球はセンター前へ。だが、当たりが強すぎて2塁ランナーは3塁でストップ。
 1死満塁、サヨナラの絶好のチャンスで4番・高橋智之(国士舘高)に打順が回ってきた。ここで日本大ベンチは十亀から、4年生左腕・江村将也(佐野日本大)へスイッチする。
 勢い、雰囲気ともに国士舘大が優位に感じる中、江村が投じた初球を打ち返すと、ライトへ大きな当たりが飛んだ。サヨナラヒット――。

 国士舘大の選手は一塁ベンチから一斉にホームへと駆けて行き、歓喜に沸いた。その中で、エース左腕の表情はどうなっているだろう? ゲームセットの直後、喜びでもみくちゃになったときには岩澤を見つけることが出来なかったが、整列してあいさつし、ベンチの方へと振り返ったときに岩澤を見つけた。彼はなんと泣いていた。初めて岩澤の表情が崩れたのを見た瞬間だった。それだけ感極まったということだろう。

 優勝を決めた17日後、青山学院大と対した入れ替え戦でも、岩澤は初戦に先発。8安打浴びて4失点するも、粘り強い投球と味方の援護もあり、初戦をものにすることが出来た。
 ベンチからのスタートとなった2戦目は終盤までゼロ行進。しかし、国士舘大が7回にようやく先制すると、岩澤はブルペンへ向かった。結局、岩澤の出番はなく、3番手の樋口裕史(富士見高)が青山学院大打線をパーフェクトに抑えて国士舘大が1部昇格を決めた。そのときの岩澤の目には涙はなく、代わりに笑顔がはじけていた。

091116iwasawa01相手を封じてマウンドからベンチに向かう岩澤投手。ひと息つきたくなる場面だが、決して表情は変わらない

岩澤の心中はいかに

 岩澤は今年の秋季リーグで最優秀投手を受賞した。
 9試合に登板して6勝1敗。防御率は2部で唯一の1点台である1.41、これはリーグトップである。
 しかし、実は岩澤は今春にも好成績を収めている。秋と同じく9試合に登板して4勝2敗、防御率はなんと1.21。このときもリーグトップだった。
 だが、春と秋では投球回数が違う。岩澤は今春の開幕戦に先発したものの、1点リードの6回でマウンドを降りている。この試合は後を受けた投手陣も打たれ、最終的に逆転負けを喫してしまうのだが、岩澤はこういった苦い経験を秋に生かし、投球回数は春の59 回3分の1から秋は76回3分の1に増加。完投数も春より3試合多い4とした。投手陣の柱として、しっかりとその試合を投げ切る立派なエースに成長していた。

 主戦として先発、完投を繰り返し、チームを勝利に導いた左腕エースが、自分が神宮で投げることなく大学生活を終える。チームを1部に導き、後輩へこれ以上ない置き土産を残したとはいえ、その心中はどのようなものなのだろうか。
 だが、後輩たちが1部に定着し、新たな伝統を築くことができれば、岩澤正登にとってさらに大きな喜びとなり、自分自身の糧となっていくのは間違いない。

         

※この連載は原則2週間に1度のペースで更新しております。次回は12月初旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライター。昨年は岩本貴裕(広島)を徹底マークしたため、強打コンビを組んだ中田もくまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2009-10-27

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第9回)

戦国東都秋の陣は、大詰めへ!

現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」
 現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポート。2部、3部はすでに優勝チームが決定し、秋季リーグも大詰め。
 そんな中、今回山田さんがスポットを当てたのは、2部で中村優太選手(東農大)です。山田さんが注目する中村選手はどのような選手なのか? またこの中村選手の秋季シーズンとは? それではスタートです!

中村優太選手(東農大)

中日のアライバプレーをやってのける!

P1150079_3中日の「アライバ」並みのプレーを見せたセカンド・中村優太選手(写真右)とショート・大沢達馬(左)

 東都の2部リーグに所属している東京農業大学。近年は終盤まで優勝争いに加わるものの、あと一歩及ばないシーズンが続いている。
 東農大の4年生、セカンドを守るのは中村優太(大商大堺高)だ。高校、大学の同期には松井佑介や南田朋哉など、力のあるバッターが顔を揃える。一方の中村は、164センチと小柄な選手。体いっぱいにプレーする姿が印象的だ。塁に出れば積極的な走塁を見せ、守備でも目を引くシーンが見られる。
 しかし、それだけではない。彼のチームに対する姿勢こそ最大の魅力だ。東農大の投手陣は下級生が主体だが、守備中、マウンド上のピッチャーに一球一球声をかけ、周りの守備陣にも声をかける。大声で鼓舞するわけではないが、ピッチャーの元へと数歩近寄り、身振り手振りを交えて声をかける。
 守備でも今春、ショートの大沢達馬(国士舘高)とビッグプレーをやってのけた。
 二遊間へ飛んだ打球を、中村が体勢を崩しながらも捕球。しかしそこから起き上がって一塁へ投げたところで間に合わないタイミングだった。この状況で、中村は瞬時に判断し、大沢へトス。大沢が一塁へ送球。アウト!
 中日ドラゴンズの荒木・井端を思わせるプレーは、神宮第二球場を訪れたファンを沸かせた。このプレーは1度だけではない。少なくとも私は、幸運にも2度同じシーンを見ることができた。

最後のシーズンに得た大きな変化
~当たり前のことを当たり前に~

 プロ並みのプレーを見せた反面、何でもないような打球も捕り損ねたり、一塁への送球が逸れることもあった。
 今秋の開幕前、彼は「以前はかっこいいプレーが、いいプレーだと思っていた」と話していた。それが今では「当たり前のことを当たり前に。背伸びしない」。
 中村自身に変化が訪れた。
 中村の大学最後のシーズンもまた、最終カードまで東京農業大学には優勝の可能性が残されていた。だが拓殖大学1回戦に逆転サヨナラ負けを喫し、それが潰えた。P1150577_6
 翌2戦目に勝ち、対戦成績を1勝1敗のタイにして3回戦を迎えた。泣いても笑ってもこれが最後の試合。優勝はなくとも悔いのないものにしてもらいたいという一心だった。

 第一打席にヒットを打つと、犠飛で生還。先制のホームを踏んだ。しかしそれ以降は無安打。チームはリードしているものの、その差はわずか1点。

 9回表の攻撃は7番から。トップバッターの中村が打席に立つには1人ランナーが出なくてはならない。
 しかし――。
 あっという間に2アウト。ネクストバッターズサークルでしゃがみ、試合の行方を見守る中村。9番打者が中飛に倒れると、少し笑ってバットを片手で振り上げ、ベンチの方を振り返るとまた笑った。

      *    *    *


 あと一歩の壁に何度も阻まれた中村優太の4年間。最後のリーグ戦は無失策とはいかなかったが、安定した守りに加えて、トップバッターとしての役目を果たしたといえる。
 そして、このあと一歩の壁は、後輩たちがきっと乗り越えてくれる。どんなときも中村が声をかけ続けてきた後輩たちだ。東都のグラウンドに中村の姿はなくても、その姿勢はきっと彼らが受け継ぐだろうから。

※この連載は原則2週間に1度のペースで更新しております。次回は11月中旬の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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2009-10-12

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第8回)

戦国東都秋のは終盤へ!

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」
 現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポート。今シーズンは、勝ち星を先行させた立正大、國學院大に中央大が加わり並んで勝ち点2。東洋大、亜細亜大の思わぬ不調が完全に先を読めなくしています。
 そんな中、今回山田さんがスポットを当てたのは、なんと2部で投げている十亀剣選手(日本大)です。「とがめ」と読むこの選手はいったいどんな選手なのでしょうか? それではスタートです!

                   

091012togame03_4脅威の連投マシーン 十亀剣(日本大)

中継ぎが多かった下級生時代

 日本大の十亀(とがめ)剣は、サイドスローながらも直球は145キロを超える。強気な性格を前面に出すタイプだ。
 大学デビューは1年春の開幕戦。チームがリードを許している状況で4番手として登板。1イニングを無失点で抑えた。
 この1年間の登板機会はいずれも救援だった。しかし、秋季リーグでの入替戦に2戦続けて起用されていることから、十亀に対する期待の高さや信頼の高さがうかがえる。このときは1戦目は1-1と同点の場面で登板し、2回を無失点に抑える好投も、翌2戦目は5回からのロングリリーフで3失点。日本大は2連敗で2部降格となった。
 2部でスタートした2年時は、1学年上の服部大輔(日立製作所)が連日、先発や中継ぎにフル稼働。そして1学年下の野田雄大(青森山田)が2戦目の先発を任さる中、十亀はやはり中継ぎでの登板がほとんどであった。
 彼がこれまで1部で過ごした4季は、白星を手にしたことが1度もない。2部で初勝利を得たのも2年秋、それも救援で得たものだった。

     

4年春は12試合中10試合に登板

 最上級生として臨む4年春のシーズン。2部リーグで迎え、東京農業大との開幕戦に先発した十亀は1失点完投勝ち。これが初めての先発での白星だった。
 そして、翌2戦目も先発のマウンドには十亀がいた。日本大が先勝して迎えた試合で、まさかエース十亀が連投するなんて…。わずかなリードの場面で終盤にリリーフすることは考えられたが、この起用にはただただ驚くばかりだった。だが、この日は初回に攻撃陣が得た2点を守りきれず、終盤にひっくりかされてしまう。エースの連投で一気に連勝を狙った日本大は、十亀が完投しながら3対2で敗戦という最悪の結果になってしまった。
 そして、もう負けられない翌日の3戦目。なんと、この試合の先発も十亀だった。3連投で先発となった決戦の行方は、さすがに無理がたたったのか、十亀は7回途中6失点でKOされてしまった。かつて、那須野巧(現横浜)が04年の入替戦で見せた芸当の再来を狙ったようにも思えるこの起用法に賛否はあるだろうが、少なくとも十亀の底知れぬスタミナは十二分に証明されたと言えるだろう。
 このカードの登板が象徴するかのように、その後の試合も十亀はどんどんマウンドに送られた。日本大の試合を見れば十亀を見ない日はないほど、先発に、あるいは救援に奮闘していた。
 十亀しかいないのか――。
 そんな想いがするほどだった。
 だが、そんな骨身を削るほどのピッチングもむなしく、日本大は2部リーグ5位でシーズンを終えた。
 この春の十亀の登板数は、実に12試合中10試合にも上った。

        

091012togame02_2左足を上げた後、一気に脱力して重心を落とす十亀のモーションは、プロ投手でいえば鈴木義広(中日)に近い印象だ

今季も連戦連投で奮闘中

 そして、すでに開幕しているラストシーズン。
 開幕戦の専修大戦に先発した十亀は、6回裏に味方が勝ち越し点を取ってくれた直後の7回表に打ち込まれて敗戦。しかし、翌日は7回途中まで1失点と好投した先発の野田を受けてリリーフ。無失点に抑えて逃げ切り、1勝1敗のタイとした。3戦目は再び先発し、3回途中4失点と乱調であったが、打線が援護して逆転勝ちを収めた。
 その後、専修大戦、翌週の駒澤大戦はともに勝ち星がつかず、チームの勝ち点も1のままだったが、東京農業大では初戦、3戦目に完投勝利というまたしても驚くべき剛腕ぶりを発揮。この時点で日本大は2部の首位タイになった。

 優勝に向けて1戦も負けられない戦いが続く中、続いて迎えた拓殖大との初戦。
 先頭バッターにヒットを打たれ、バントで二塁に進められるが併殺でピンチをしのぐ。それ以降は安定したピッチングで拓殖大打線を寄せ付けない。味方が先制してからは三者凡退を続けた。
 しかし、1対0でリードして迎えた8回。先頭打者にこの日3本目の安打となる二塁打を右中間に打たれてピンチを招く。続く打者に進塁打を打たれて1死三塁。
 この日一番のピンチを迎えた十亀は、まず次打者をセカンドファールフライに打ち取り2アウト。続く9番打者は2-1と追い込んだ。
 渾身の力で勝負に行った4球目。
 投球と同時に帽子が落ちた。
 空振り三振!
 十亀は手を叩いて少し吠え、ベンチへと戻って行った。

 そして最終回2死。痛烈な打球がファーストのもとへ飛んでいくが体で止め、ベースカバーに走る十亀へトスし、アウト。ガッツポーズを見せた。

091012togame01_2神宮第二球場に試合の場が移っても、十亀は連日のように投げ続けている。大学最後のシーズンに入替戦に進めるか注目したい

 台風の影響で金曜日にまで延びた2回戦。先発したのは野田だった。しかし無失点に抑えるも制球が乱れて不安定な出来。早くも序盤から十亀が救援に回った。
 しかし、十亀はこの日も危なげない投球で拓殖大打線に得点を許さずに投げ切り、勝ち点を得た。
 
 残り1カードの日本大は、現在優勝争いの圏内にいる。十亀は1年生から3年生の秋季リーグすべてで1部・2部の入替戦を経験している。
 今秋はどうなるか――。
 最後に神宮初勝利を手にして、落ちた帽子を拾うことも忘れるほど歓喜に溢れる十亀の姿を見てみたい。

       

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2009-09-24

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第7回)

戦国東都秋の陣、現在白熱中!

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」
 現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポート。今シーズンは、國學院大や立正大が先行して勝ち点を挙げ、まさに「戦国時代」を思わせる展開です。
 そんな中、今回山田さんがスポットを当てたのはどの選手でしょうか? それではスタートです!

                   

「4番・サード、ナガシマ」からの脱却 長島一成(青山学院大)

Nagashima01修徳高時代から主軸を打ち、打撃センスには定評のあった長島一成(青山学院大)

 青山学院大の長島一成(修徳)が守るのはサードだ。 
 サードのポジションにいるナガシマを初めて見たのは、彼が高校2年の東東京大会準決勝だった。最初はとにかく名前やポジションちょっとした衝撃があった。なにせ「サード・ナガシマ」である。しかも名前が「カズシゲ」だという。さらにこの一戦でホームランも放った。その時から、私は長島が強く印象に残っていた。

 大学では1年時からリーグ戦に出場し、背番号は3。左打席での類い希な打撃センスは高校時代から評価されており、2年生となった2007年には4番を任されるようになった。
 しかし、結果の方はというとなかなか伴わない。春季はわずか4打点で打率は.250。レギュラーに定着して初めてのシーズン、いきなり戦国東都で思うように成績を残せるほど簡単ではなったのだろう。
 だが、春が秋になっても長島は波に乗ることができない。それどころか、2カード目の國學院大戦では2回戦からスタメン落ちになってしまった。それ以降は、小窪哲也(広島)や高島毅(オリックス)がその役を務め、長島が4番に座ることはなかった。

Nagashima02守備位置は「ナガシマ」の響きがもっとも様になるサードがメイン。状況に応じてファーストに回ることもある

 3年生となった翌春。長島は開幕から不動の4番サードでスターティングメンバーに名を連ねた。今年こそはチームの柱になってくれることを期待しての再抜擢である。その期待に応えるかのように、長島は開幕から毎カードで安打を放ったが、次第に打ったり打たなかったりと波が出てくる。
 第5週の立正大戦2回戦では6打数ノーヒット。1週間が空いたあとの日本大戦初戦でもノーヒットで途中交代となると、翌日の第2戦ではいきなり打順が9番になってしまった。そして、3年秋はベンチを温めるようになってしまい、スタメンは最終カードの1試合のみ。出場も2試合に止まり、無安打でシーズンを終えた。

 そして、長島にとってラストイヤーとなった今春。再び4番でスタメンに名を連ねたものの、またも調子が上がりきらず、4番としてチームを引っ張っているようには見えなかった。成績の下降に伴い、シーズン中盤の中央大戦から打順は7番となった。
 4番に入っているときにも、打つときは打っているせいだろうか。長島が下位の打順を打つというのは、なにかイメージが違う感う。結果が求められる世界なのだから当然であることは分かるが、少し淋しい気もした。

 もう、苦しむ長島など見たくはない――。

 しかし、その一心で試合を見ていると、打順が8番となった最終カードの國學院大戦で3安打。それまでの不調が嘘のようにヒットを重ね、秋に希望を持たせた状態でシーズンを終了することができた。これは本当に幸いだった。

   *      *      *

 現在、長島にとって大学最後のシーズンとなる秋のリーグ戦が進んでいる。
 9月5日に行われた中央大との開幕戦でコールされたのは、なんと「1番サード長島くん」。長島が1番とは意外だった。
 思えば、この春は盗塁を5つ決めている。足があることもアピールしていた。1番での起用はその結果ということだろう。
 そして、開幕最初の打席。長島は澤村拓一(佐野日大)からいきなり右中間に抜けるスリーベースヒットを放った。その際、二塁を回ってさらに加速したスピードが予想以上に素晴らしく見えたのは、打順が1番のせいだろうか…。

Nagashima03大学進学後は正直伸び悩んだ。最後のシーズンとなる秋。結果を残して次のステージにつなげたい

 正直言うと、長島がクリーンアップの一角を堂々と担う姿も見たい気持ちはある。しかし、これまでの大学生活の中で見つけることのできなかった『居場所』になるかもしれない。
 卒業後の進路も気になるこの時期。「ナガシマカズシゲ」がチームを引っ張っていく最後の姿に期待したい。

       

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1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライター。昨年は岩本貴裕(広島)を徹底マークしたため、強打コンビを組んだ中田もくまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2009-09-14

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第6回)

夏の暑さにも負けず、戦国東都魅力全開です!

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。
 前回予告していた更新月日から大幅に遅れてしまいまして、ご迷惑をおかけいたしました。

 現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、ファンに向けてお届けする東都大学リーグのレポート。いよいよ秋のシーズンがスタートし、楽しみな季節となりました。今回は、どの選手が主役でしょうか? それではスタートです!

                   

090911muramatsu021年時にいきなり大活躍し、一躍話題となった村松伸哉(國學院大)

完全復活の宣言はこの秋に 村松伸哉(國學院大)

 復活の一勝。そう呼ぶにはまだ早いのかもしれない。

 國學院大・村松伸哉(光星学院)の大学デビューは鮮烈なものだった。
 1年春の開幕カードとなる専修大1回戦で先発を任され、初回の先頭打者に投げ込んだ直球は153キロ。東都の最速記録だった。
 この試合で大学初勝利を手にし、春季は3勝を挙げた。そして日米大学野球の代表に選ばれ、大会を通じて抑えとして日本の優勝に貢献。MVPにも選ばれた。
 村松の大学野球生活の始まりは、同学年で同じく代表にも選出された斎藤佑樹(早稲田大)にも劣らないものだった。

 しかし、その年の秋、村松のピッチングは振るわなくなる。開幕初戦の東洋大戦で大場翔太(ソフトバンク)との投げ合いに3対2で敗れると、中1日空けてまたも大場との投げ合いになった3回戦でも完投しながら3対0で連敗。次節の駒澤大戦でも初戦を完投しながら落としてしまい、逃げ切りを狙ってリリーフのマウンドに上がった2回戦では1点差を守りきれずに引き分けに持ち込まれてしまった。そして、翌日の3回戦に先発しノックアウト。青山学院大戦では、3回戦のロングリリーフで気を吐きようやく勝利投手になったものの、続く亜細亜大戦でまたもノックアウト。春にかみ合っていたピッチングの歯車は少しずつ狂いだしていた。

090911muramatsu031年秋以降は勝ちに恵まれず、調子も不安定となり、苦しい投球が続いた

 そして、勝てば最下位回避となる最終カードの立正大戦。2回戦でリリーフ勝利を挙げた村松は、1点を争う展開となあった3回戦でも同点の場面でマウンドへ上がった。
 だが、9回に2四球とヒットで満塁にすると、暴投でサヨナラ負け。整列に向かうこともままならず、味方に肩を支えながらあいさつをした。
 このシーズンを最下位で終えた國學院大は、さらに日本大との入替戦で2連敗し2部降格となる。村松は2戦目に先発したが、1度に2人を返すワイルドピッチで2失点し、降板する内容。被安打は3だが、四死球は6を数えた。

       

 あれから約2年――。以後の村松は苦しみに溢れていた。
 2年春は先発を任されても結果を残せない。シーズン終盤には2学年上の高橋広志(鷺宮製作所)が連日先発し、村松は中継ぎに回った。チームは2部でも最下位に沈み、3部との入れ替え戦で村松が登板することはなかった。
 秋にチームは優勝したが、村松の調子は戻らない。やはり登板機会は8回や9回からなどの1~2イニングスで、多くが追う展開の場面だった。調子が不安定なため、投げてみないと分からない。低くきた投球がベース手前でワンバウンドし、角度が変わってそのままスタンドへ跳ねてきたこともある。きっちりと抑えたかと思えば、翌日は不安が残る内容だったりと、村松に対しての不安は拭い去ることが出来なかった。
 結局、1部との入替戦も登板はなし。しかし、ベンチとブルペンを往復する姿を見ることが何度かあり、投げなくともチームにとってすべきことを村松は分かっていたように思う。
 だからこそ、村松が再び神宮のマウンドで闘志をむき出しにして投げる姿を見たいという気持ちでいっぱいだった。

        

090911muramatsu01イニングを締めて、思わずガッツポーズでマウンドを降りる村松。今秋に完全復活を目指す

 そして今春。國學院大の開幕戦の先発を任されたのは村松だった。
 四球、四球で一気に崩れることはなかったが、それでも四死球が失点に絡んでしまった。3戦目も先発したが、2回途中でKO。
 このカード以降も、なかなか思うような結果を残せない。1学年下の高木京介(星稜)はエースの働きをし、同学年の奥村和久(旭川大高)と埜口卓哉(つくば秀英)はリリーフで安定感のある投球を見せていた。それでもなお、私は村松の活躍を願うばかりだった。
 ようやく訪れた村松の春季1勝目は、チームの最下位の可能性を消し去った最終週の試合。6回を1失点、無四球の内容だった。久しぶりの勝利がチームを救う1勝ということもあってだろうか、試合後に村松は涙を流していた。だが、これで『復活』とはまだ思えない。それは今秋以降のピッチングが示してくれるはずだ。

 負けて泣き、勝って泣き。『村松』と『涙』は今後も離れなさそうだが、次に泣くのは頂点を掴んだその時だ。

※この連載は原則2週間に1度のペースで更新しております。次回は9月第4週の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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http://www.tohto-bbl.com/

       

■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライター。昨年は岩本貴裕(広島)を徹底マークしたため、強打コンビを組んだ中田もくまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2009-08-14

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第5回)

夏の暑さにも負けず、戦国東都魅力全開です!

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。
 現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、シーズンオフをもてあます大学野球ファンに向けてお届けいたします。
 今回は、どの選手が主役でしょうか? それではスタートです!

                   

090814jinno02この春は主に攻撃の起点として1番、3番などを打った神野

守備難の克服目指せ! 神野達哉(立正大)

 立正大のサード、神野達哉(埼玉栄高)。某アルコール飲料と名前が似ていて、スタンドからはそのCM曲のメロディに合わせて「ジーンノ、ジーンノ、ジンノ♪…」と歌われる。それを聞くたびに立正らしさを感じて楽しくなる。
 神野は183センチと長身で、クリーンアップを担うことが多い選手だ。しかし、私が初めてその名を意識し始めたのは、彼が1番打者に名を連ねるようになってから。俊足ではあるが、何か1番バッターというイメージが私の中に沸かなかった。それでも打撃では上位に入ることもあり、足も速い。だが、それ以上に目につくようになったのは、守備にやや難があることだった。

 これまでのシーズン、神野は大体2個程の失策数であったが、今春の失策は6を数えた。これはもちろんリーグワーストの数字である。これは、開幕3週目の対東洋大2回戦での出来事が大きく影響しているように思う。
 2回裏のこと。立正大は満塁のピンチを招くと、木村篤史(愛工大名電)が放った打球がイレギュラーし、神野の顔面を襲ったのだ。結果は2点タイムリーとなり、神野は顔を抑えて手当てのために一旦ベンチへ下がった。少しして戻ってきて再び守備につき、その試合は何とか出場しきった。
 しかし、神野はこの試合以来、明らかに打球を怖がるようになった。正面に向かって強く弾むゴロに顔を大きく背けてグラブを出す。そうしたシーンが何度か見られた。
 硬球が顔に当たる衝撃や痛さなど、私には想像もつかない。だからあれだけ怖がっている姿を見ると、もう神野のところへ打球が飛ばないでほしいとさえ願ってしまう。

 東洋大とのあの一戦から2日後の試合では顔にあざが見られ、痛々しい姿だった。その日は國學院大との4回戦。両チーム0点が続いて試合は延長13回に入った。
 そして、13回裏の國學院大の攻撃も2死無走者。14回への突入が濃厚となりつつある雰囲気の中、辻寛人(駒大苫小牧)の打球がサードへ飛ぶ。だが、神野はこれを処理出来ずエラー。そして次の庄司輔(修徳高)が右中間へサヨナラとなる2ランを放って試合が決まった。
 そして、青山学院大1回戦においても、神野は2点リードの7回に1イニング2失策を犯して逆転を許した。
 こうして振り返ってみると、この春は神野の失策から失点につながり、試合が決まることがやはり多かったように思う。

090814jinno01打球が顔面に当たるという不運もあり、守備面で不安が出てしまった。秋のリーグ戦までには克服してほしい

 守りでミスが重なると、バッティングにも影響を及ぼすのか。今季10安打の神野は、最初の2カードで6安打を放ったものの、それ以降は快音は聞かれなくなった。
 チームも開幕から勝ち点を挙げられずに最下位。2部優勝の専修大を相手に入替戦に突入する。
 初戦を1対0という最少スコアで勝利した立正大は、残留へ王手をかけた。専修大の2戦目の先発投手はエース・湯本五十六(藤代高)、前日に引き続いての連投である。1戦目は無安打に抑えられいた神野だったが、この日は3度の出塁で1打点に1得点と活躍を見せた。
 しかし、ここでも神野の守備の不安は露呈する。2死からサードへ飛んだ来たゴロに対して、捕球しようとするが後逸。
「またか!」
 頭を抱えたくなる気持ちが一瞬よぎった。ここは土壇場入替戦。ひとつのミスで流れは大きく変わり、それがそのまま2部落ちにつなり兼ねない。

 ところが、ここではショートの高橋翔也(日大三)がバックアップしてファーストへ送球し、アウト! 入替戦ならではの必死の好プレーが悪い流れを断ち切った。
 ベンチも高橋も、そして神野も笑顔でベンチ前へと集まる。このような光景を最後の最後に見られて、とても嬉しかった。

 結局、立正大は2戦目も勝利を飾って連勝し、1部残留を決めた。
 このプレーを振り返ってみて、野球は1人でやるものではない、ミスはカバーしあうもの…そんな基本的で当たり前のことを、改めて実感させられた。
 だが、もちろんそのことと神野の守備力の課題は別の話。命拾いをした神野が、次の秋のリーグ戦でどれだけ成長した守備を披露することができるか? 大いに期待したい。 

           

※この連載は原則2週間に1度のペースで更新しております。次回は8月第4週の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライター。昨年は岩本貴裕(広島)を徹底マークしたため、強打コンビを組んだ中田もくまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2009-07-24

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第4回)

戦国東都の魅力をお伝えいたします

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。
 現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、シーズンオフをもてあます大学野球ファンに向けてお届けいたします。
 今回は、どの選手が主役でしょうか? それではスタートです!

                   

チームも自分も有終の美を 赤嶺慎(日本大)

  日本大の主将としてチームを引っ張る赤嶺慎(沖縄尚学高)。50mを5秒台で走ると俊足と、ピッチャー経験もある強肩が魅力的な外野手だ。
 大学では3学年上の長野久義(Honda)をはじめ、そうそうたる外野陣の中で、1年秋から途中出場ではあるが試合に出ていた。

090724akamineマスクを渡す赤嶺。相手キャッチャーもこれに笑顔でこたえる

 そして2年となり、2部で迎えた翌2007年春の開幕戦。赤嶺は2番ライトでスターティングメンバーに名を連ねた。この試合、チームは敗れたものの、4打数4安打。鈴木博識監督もよほど印象に残ったのだろう。翌日の試合から、赤嶺が主に1番を任されるようになった。結局、日本大は4位に沈んだが、赤嶺自身は打率.364と好成績を残した。
 続く秋のリーグ戦でも、赤嶺は打率3割超えと好調を維持。チームも見事2部優勝を果たした。この年、東都では日本大の試合をメインに見ていた私には、なかなか勝てないチームに光を差す赤嶺の活躍がとても印象的だった。

 実は私にとって、その活躍以上に彼に注目するようになった出来事がある。ある試合でのこと、打席に向かった赤嶺は、ひとつ前のプレーで投げ外されていたキャッチャーマスクを見つけると、それを拾って相手捕手へと手渡しのだ。これを捕手が笑顔で受け取る。本当に些細なことなのかもしれないが、「戦国東都」と呼ばれる緊張感のあるリーグにおいてはあまり目にしたことのない光景だった。
 これ以降、“赤嶺慎”という選手の存在が、強く心に残るようになった。

 翌08年春、3年となった赤嶺の日本大は、1年ぶりの1部リーグで始まった。開幕戦こそ3番だった赤嶺だが、次の試合以降は不動の1番バッターを務めた。
 そしてこのシーズン打率3割をマーク、自身初のベストナインにも輝いた。

 しかしこの年の秋、日本大はまたも最下位に沈んでしまう。チームは國學院大との入替戦に突入した。
 この入替戦で気になったことがあった。元々赤嶺は足を高く上げる打撃フォームだったのだが、右足をじっと地面に着けたまま振り出すノーステップ打法に変わったのだ。そのことに気づいた観客が何人いたかは知るよしもない。しかし、これまでのプレーを見続けてきた私にとって、この大胆なフォーム改造はまたひとつ違う“赤嶺慎”の姿として印象に残った。
 新しい打法で臨んだ赤嶺は、初戦こそノーヒットながら2戦目は4安打。だが、チームは2連敗を喫してしまい、再び2部落ちの苦汁を味わうこととなった。

Akamine_batting_form当初は足を上げていた赤嶺だが(写真左)、2008年秋(3年)の入替戦ではノーステップ打法(写真右)に変わっていた

 2009年は、赤嶺にとってラストイヤーとなる。この春の2部リーグ戦では4番を任されることもあったが、他のシーズンと同様、打撃面ではしっかり数字を残せた。
 だが、チームは5位。これまでの赤嶺の東都でのプレーを見ていると、自身の成績とチームの成績がなかなか比例せず、歯がゆいと感じる部分がある。もちろん、それは誰よりも赤嶺本人が感じていることだろう。

 次の秋は、いよいよ大学最後のシーズン。今度こそ、赤嶺の活躍がチームの勝利を引き寄せるものになることを、願って止まない。

            

※この連載は原則2週間に1度のペースで更新していくことになりました。次回は8月第2週の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
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2009-07-10

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記(第3回)

戦国東都の魅力を綴る連載記事、第3回です

 現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートする「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。
 現役大学生ながら、「いぶし銀」の観戦眼をもつ山田さんが、シーズンオフをもてあます大学野球ファンに向けてお届けいたします。
 今回は、どの選手が主役でしょうか? それではスタートです!

                   

090710koishi_top正念場の1部2部入替え戦 変則左腕が見た天国と地獄 小石博孝(立正大)

 立正大の小石博孝(鶴崎工)はテークバックの少ない、独特なフォームの投手だ。
 同学年の菅井聡(中央学院)や1学年下の南昌輝(県和歌山商)らに隠れ、登板機会はほとんどが中継ぎだが、初めて小石を見たときから珍しい彼のフォームを見るのが楽しみになった。
 この春も小石は連日救援で登板し奮闘していたものの、チームは勝ち点を挙げられず、優勝戦線からは早い段階で外れてしまった。それどころか、最終カードまで國學院大と最下位争いをする展開となる。
 立正大の最終カードは中央大戦。前日の試合で、國學院大が青山学院大に勝利を収め、既に勝率の関係で立正大の最下位が確定して迎えた第3回戦は、序盤に先発・南が打ち込まれ、小石が2回途中からリリーフした。結局、この試合を最後まで投げて1安打無失点。この試合も敗れてチームは勝ち点なしで終えたが、小石の好投が入れ替え戦に向けての明るい光に見えた。

 そして迎えた東都大学野球リーグ1部・2部の入れ替え戦。
 これまで7季連続で2部優勝校が1部昇格、つまり入れ替わっているという、まさに「戦国東都」を象徴する修羅場の舞台である。
 今春は立正大(1部最下位)と専修大(2部優勝)の間で行われる2戦先勝の決戦。専修大はこの連載の第1回に登場した湯本五十六(藤代)が満を持してマウンドに上がった。
 それに対して、立正大が先発を託したのが小石である。春季の先発はわずか2度であったが、南が決して好調とは言えない状況では当然な選択と言えるものだった。

 立ち上がり、2007年春以来の1部復帰に燃える専修大打線を相手に3回までノーヒット。小石の顔からは笑みがこぼれる。自らが投じる一球一球に、よく声も出ていた。
 ただ、この日気になったことがひとつ。実は、セットに入ってから投げる瞬間にボールを落とすシーンが2度あったのだ。いずれもランナーはいなかったために試合展開に影響はなかったのだが、大学野球でそうそう見られるシーンではないので、頭に引っかかった――。
 ただ、そんな思いもこの日の小石の好投の前には小さいことのように思えた。得点圏にランナーを背負ったピンチを切りぬければ、全身でその喜びを表し、満面の笑みでベンチへ戻ってくる。そういえば、リーグ戦のときから小石の沈んだ表情は記憶にない。
 結局、小石は7回途中まで投げて3安打無失点の好投を見せ、チームも1対0で勝利した。これは試合後の報道で知ったのだが、この白星が小石にとって「神宮初勝利」とのこと。小石が未勝利というのは意外だった。言い方は悪いが、1勝くらいはしていると思っていたし、していても不思議ではない投手だったからだ。

090710koishi_2セットポジションからボールを持った腕を小さくたたむ。小石独特の投球フォーム

 そして、1部残留をかけた第2戦。この日の先発もまた、専修大が湯本、立正大は小石だった。
 試合は初回に立正大が3点を先制し、主導権を握る。次の回が始まる前、ベンチから主将の石名坂規之(学法石川)が「3点取られても良いよ」と声をかける。これにマウンド上の小石は笑顔で応えた。
 しかしこの回、前日に頭に引っかかっていたあのシーンがよみがえる。ランナーを二・三塁に置いて、小石は前日に2度犯した「落球」をしてしまった。
 痛恨のボーク――。
 1点を失ったこのプレーにより、伊藤由紀夫監督が動き、投手交代が告げられた。
 ともすれば、序盤にして試合の流れが大きく動きかねない微妙な局面のはずだが、それでも、ベンチへ戻ってくる小石の表情は暗くはない。苦笑い…でもなく、笑顔。だからベンチも笑顔で迎えて雰囲気も決して悪くはならなかった。もちろんベンチに下がっても、グラウンド上の仲間たちに声をかけ続けた。
 そしてこの回をなんとか凌いだ立正大は、次の3回にも1点を失いながらも、後続の菅井、出雲伊織(静岡学園)、南の主力3投手がつないで凌ぎ、初回以降ノーヒットに抑えられていた打線も8回にダメ押しの1点を追加。専修大は2試合とも湯本が気迫の投球で最後まで投げきったが、結局、立正大が4対2で勝利を収め、ジンクスを久しぶりに破っての1部残留を決めた。
 
 小石にとっては、天国と地獄の両方を体験した入替え戦。しかし、ともあれ秋も神宮で投げることができる。入替え戦の勝利に続いて、次こそ“リーグ戦初勝利”を手にして笑う小石がきっと見られるだろう。

※この連載は原則2週間に1度のペースで更新していくことになりました。次回は7月第4週の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライター。昨年は岩本貴裕(広島)を徹底マークしたため、強打コンビを組んだ中田もくまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。現在、年中仕事募集中。

2009-06-23

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記

戦国東都の魅力を綴る連載記事、第2回が登場

 2度目の登場となります「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。現役大学生ライターの山田さんが、観戦拠点ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートいたします。

 山田さんは現役大学生ながら、キャピキャピしたところがあまりなく、その観戦姿勢はまさに「いぶし銀」。注目選手の目のつけどころも、独特なものがあります。大学野球界は全日本大学野球選手権が終わり、日米大学野球選手権に参加する選手以外は、事実上オフシーズンとなりましたが、それでも東都の話題に触れたい! と思う方はぜひこちらの記事で昇華頂ければと思います。

                   

090623watanabe01神宮の杜に轟く雄叫びを聞け! そして華麗なプレーに唸れ! 渡邉貴美男(國學院大)

 國學院大のショート・渡邉貴美男(文星芸大付)。彼の身長は164センチと小柄だが、グラウンドでは誰よりも目立つ存在だ。
 まずその声に惹かれる。
 都合があって神宮に着くのが試合開始時刻を少し過ぎてしまったある日。球場の手前で彼の声が響くのが聞こえた。その声からして、どうやら國學院大の選手が守備についているらしい。守備位置から一球一球に声をかける、そんないつもの光景が目に浮かんだ。彼はそれだけで試合状況を教えてくれるほどの透き通る声の持ち主だ。
 國學院大はどの選手も元気良く声が出ている。その中でも、円陣を組んでも誰よりも声が出ていて、グラウンド整備が終わると真っ先に職員に「ありがとうございます!」と帽子を取る。そんな姿は見ていてとても気持ちがいい。

090623watanabe03決してあきらめることのない球際の強さ、捕球後の素早い動作と正確な送球が渡邉の最大の魅力

 しかし、それだけではない。もちろん遊撃手としてのプレーにも目を惹くものがある。
 シーズン前、「“貴美男のあのプレー、何気ないけどよかった”と言われるような守備をしたい」と話していたが、今春も幾度となく華麗な動きを見せてくれた。
 外野に抜けそうなあたりを飛び込んで捕球し、素早く起き上がって送球。ノーバウンドでもワンバウンドでも、正確にファーストのミットへと収まっていく。
 また、レフト前に運ばれそうな打球も体いっぱいにジャンプしてキャッチ。この場面はピンチだっただけに、“何気なく”はなかったがチームを盛り上げる大きなプレーには違いなかった。

 そして、今春リーグ戦、亜細亜大2回戦でのワンプレー。3点ビハインドで迎えた7回、2アウト二塁で迎えたバッターは3番・中田亮二。これ以上の失点は許されない中、中田の放った打球は内野の間を抜く安打性の当たりだった。
 しかし、それを渡邉は回りこんで捕球。中田は体格から想像しがたいが、足は速い。一塁へ投げても間に合わないタイミングで渡邉は瞬時に機転をきかせ、ファーストではなくサードにボールを送った。このプレーを予期せず、三塁ベースをオーバーランしていた二塁走者は慌てて戻るがタッチアウト。もし内野安打になっていたら4番の中原恵司に回っていただけに、渡邉の冷静な判断が光るシーンだった。

090623watanabe02チーム事情で3番に入ることが多い打撃は、とにかくしぶとい。元来はノーアウトで走者が出ればキッチリバントを決める「2番打者」タイプ

 3季ぶりに一部復帰して迎えた今春の國學院大は、勝ち点1で5位に沈んだ。それでも、渡邉だけでなく他の選手も同様に、気落ちした様子は見られなかった。来シーズンも勝利を呼び込むキミオの声とプレーが楽しみだ。

※この連載は原則2週間に1度のペースで更新していくことになりました。次回は7月第2週の予定です。今後の展開にご期待下さい。

         

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2009-05-26

現役女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記

新しい連載記事がスタート

 本日より、新しい記事がスタートします。その名も「女子大生ライター・山田沙希子の 戦国東都 いぶし銀観戦記」。現役大学生ながら、昨年『野球小僧』誌においてドラフト1位で広島カープに入団した岩本貴裕選手の亜細亜大での活躍を取材した記事「左中間に向かって打て」を書いたライターが、ホームグラウンドである東都大学リーグで観戦した模様をレポートいたします。

 山田さんは現役大学生ながら、キャピキャピしたところがあまりなく、その観戦姿勢はまさに「いぶし銀」。注目選手の目のつけどころも、独特なものがあります。この春の東都大学リーグはもう終焉を迎えていますが、まだまだ東都に飽きたらぬ方はその余熱をぜひこちらの記事で昇華頂ければと思います。また、東都は見たいが、環境的にナマ観戦は不可能というかたには、すこしでもその雰囲気を味わってください。

      

ごあいさつ

 現在一人前のライターになるべく勉強中の大学4年生の山田沙希子です。

 アマ・プロ問わず野球が大好きです。特に好きなプロ野球選手は飯原誉士選手(ヤクルト)と塩川達也選手(楽天)です。
 野球を好きになったきっかけは、都立城東高が甲子園出場を決めた試合を見たことです。無理矢理神宮球場に連れて行かれたのですが、球場に響く両校の応援の美しさに聞き惚れて段々と楽しくなり、優勝の瞬間は見ず知らずの人と握手をして「野球って素晴らしい!」と思ってから10年。もう野球なしでは人生楽しめません。今では東都大学野球リーグに属する大学に通っていることもあり、東都が大好きになりました。
 しかし大学の友人は試合がいつあるのか、さらには野球部があることさえ知らない人ばかり。他大学に球好きの友人がいても「東都」を知らなかったり。そんな現実を知らなかった私は、東都観戦に行けるように授業を組んで毎週のように1人で神宮に通っていました…。
 しかし、その甲斐もあってか、『野球小僧』にて岩本貴裕選手(広島東洋カープ)を亜細亜大学4年時の1年間取材させて頂くことができました。元々ライター志望ではありましたが、やはりとても厳しい世界でした。そこで経験できたことは、今後「女子大生」という肩書きがなくなっても活きてくると思っています。

 東都と授業を両立しながらの大学生活もいよいよ最後の4年目。今年はゼミと卒論のみで卒業単位が取得できる見込みなので、現在は心置きなく東都を満喫しています。
 こちらの「『野球小僧』編集部ログ」では、そんな思い入れ深い東都の選手について書かせて頂くことになりました。栄えある第1回目の選手がいきなり2部リーグの湯本五十六(専修大)というところに共感を抱いてくれる方がいらっしゃったらうれしいです。
 どうか、今後ともよろしくお願いします!

        

湯本五十六ってご存知ですか?

090526yumoto_22部リーグで優勝を決めた専修大のエース・湯本五十六。きたる立正大との入替戦でも大車輪の登板が期待される

 専修大学のエース・湯本五十六。藤代高校時代は3年夏に甲子園に出場。この年の夏を地方大会から1人で投げぬいた右腕は、卒業後に専修大学へ進学した。
 1年春から登板機会をもらい、2年春から18番を背負った湯本は、3年間で6勝(1部では未勝利)を挙げ、今春の2部リーグ戦では6戦6勝とチームが優勝する大きな原動力となった。私は、湯本と同世代だが、失礼ながら彼が今年これほどまでに素晴らしい成績を残すとは思わなかった。

 昨秋の湯本は自滅の連続だった。制球定まらずに四死球を重ねて自らピンチを招いては痛打を浴びてマウンドを降りる悪循環。結局、シーズン途中からは登板機会さえなくなってしまった。一時期は四死球の数が投球回数をも上回り、最終的には投球回数27回に対して25。必然的にチームの成績も優勝とは遠ざかってしまう。
 しかし今春の湯本は違う。まず開幕カードである拓殖大1回戦は8回途中を1失点、3四死球とまずまずの内容。翌週の日本大戦でも9回を1失点2四死球と落ち着いて見ていられる投球だった。
 そして同じく開幕から勝ち点を落としていない東京農業大との対決。勝てば優勝が大きく近づく一戦も、序盤から味方の援護に守られ勝利を挙げた。今季初被弾となる本塁打を浴びたが、四球はゼロ。もう昨年までの姿はなかった。

 圧巻だったのは5月11日の対駒澤大戦。相手は好投手の海田智行(賀茂高)とあって、試合前の予想どおり投手戦となった。5回までお互いゼロが続いたが、6回に専修大が待望の先制点を挙げた。6回まで無安打1死球ピッチングの湯本は、7回の先頭打者に四球を与えると、続く打者に左中間を抜かれ、スタートを切っていた一塁ランナーがホームイン。同点に追いつかれてしまった。そして味方が勝ち越してくれた直後の8回1死から再び四球を出し、9回にも先頭打者に四球を与えた。
 しかし、ここでは崩れない。自らが招いたピンチの芽は自らがきちんと摘む。もったいない四球ではあるが、そんな投球ができているから周りも安心して見ていられる。この試合の湯本は1安打1失点完投勝ちと光っていた。

 さらに、優勝を決めた東京農業大との3回戦でも、当然のように先発した湯本は最初のひと回りをパーフェクトに抑える上々の滑り出しを見せる。4回に突如制球が乱れて四球で走者を出してしまうが、その表情は崩れない。この回2四球も得点は許さなかった。

 だが7回に初安打を許し、続く打者に四球を出したときには、さすがにその表情がゆがんだ。しかし、落ち着いて打者を追い込むと、最後は空振り三振に取ってピンチを脱出。マウンドを降りる際、グラブを軽く叩いて少しほえた。
 結局、湯本はその後の東京農大の攻撃を振り切り完投。専修大は5季ぶりの優勝を決めた。両手を突き上げてホームベースに集まるナインをよそに、湯本は大きな体に似合わぬ微笑みを浮かべると、ワンテンポ遅れてから左手を“ちょっとだけ”上げた。そこから、ようやく笑顔がこぼれてチームメイトたちとハイタッチをかわす。

 しかし緩んだ表情はそこまでだった。少しすると再び締まった顔つきとなり、仲間たちがベンチ内で抱き合う中、女房役の森山誠とクールダウンのキャッチボールを始めた。余韻に浸って笑顔でいても不思議ではない中、その引き締まった表情は、まるで「まだ入れ替え戦がある。喜ぶのはまだ早い」と言っているようだった。

 この春、先発完投型投手として開花した湯本五十六に、エースの姿と4年生の意地を見た。

     

●東都大学野球連盟公式サイト
http://www.tohto-bbl.com/  

       

■山田沙希子(やまだ・さきこ)
1988年生まれ、東京都出身。東都大学リーグを主戦場とする女子大生ライター。昨年は岩本貴裕(広島)を徹底マークしたため、強打コンビを組んだ中田もくまなくチェックしていた。踏まれてもすぐに立ち上がるド根性が売り。今春発売された書籍『甲子園のキセキ』(日刊スポーツ出版社/矢崎良一監修)の執筆陣に抜擢された。仕事募集中。

     

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